村川透監督が“トラ!精神”で現役宣言

 2016年も上半期を振り返る時期になった。日本映画界に目を移すと、和製ハードボイルド映画の巨匠・村川透監督の復活がトピックの一つとして挙げられるだろう。劇場映画としては1997年の「まむしの兄弟」以来、実に19年ぶり、21世紀の第1作となる「さらば あぶない刑事」が今年1月に公開された。さらに長編テレビドラマでも精力的に新作を連発している。

 その最新作は7月2日(後9・00)放送のテレビ朝日系「西村京太郎トラベルミステリー66 釧路・帯広殺人ルート」。高橋英樹主演の土曜ワイド劇場で、今年2月放送の同シリーズ「~65」に続く監督作である。いつチャンネルを変えられるか分からないテレビというシビアな媒体にあっても、活劇としての映画を血肉化したことによって生まれる、視聴者を飽きさせない「面白きゃ何でもあり精神」を発揮している。

 今春、東映本社で村川監督を取材させていただいた。原点である日活の助監督時代に接した石原裕次郎と渡哲也が主演し、盟友・松田優作と初タッグを組んだ記念碑的テレビ映画「大都会」シリーズ(日本テレビ系)の舞台裏をうかがった。取材後は「さらば あぶない刑事」のパネル前に立って写真撮影。舘ひろし、柴田恭兵の間に立つ監督のシャープな体型と黒ずくめでダンディーないでたちは、79歳という年齢を感じさせなかった。

 その時、本筋から離れて、70年の日米合作映画「トラ!トラ!トラ」について熱く語られたことが印象的だった。あの黒澤明監督が降板した窮地にあって、日活の舛田利雄と東映の深作欣二が共同監督を務め、村川はチーフ助監督としてハリウッド大作の現場を限られた時間で仕切った。59年の日活入社から10年を越える助監督としての経験値が“早い、うまい”現場の仕切りとして結実。日活ロマンポルノで3作を残して山形に帰郷していた村川が「大都会」で現場復帰した背景には、「トラ!~」で得た信頼があったという。

 そんな村川に、今も現役であり続ける監督哲学を聞いた。

 「ずっと助監督をやってきて、思うような絵(映像)に到達できるのは修行なんですよ。基本からの積み上げ。一番下のカチンコから、衣装、小道具もやって、その修行があったから、何やらせたって俺は負けないし、思う絵を作れるというのがあるわけだ。口幅ったいけどね(笑)」

 「大都会 PART2」では東京タワーでの高層撮影を敢行した。「『やろう』と思えばできるんですよ。俺は『できない』じゃなくて、『どうすればできるか』だから。(『さらば あぶない刑事』では)横浜で撮影できないシーンを四日市で撮った。『やろう』とする気構えですよ」

 「(松田主演で初タッグの映画)『最も危険な遊戯』は十分なお金も時間もない中、2週間、1人で3人分働いた。そして俺の思いを具現化させてもらったのは『蘇る金狼』。やりたいようにやらせてもらった。頂点にいったのは『野獣死すべし』。それから優作は芸術作品へ、(鈴木)清順さんや森田芳光に行って、俺は俺でテレビも含めて400何十本やった。『暴れん坊将軍』なんて800回記念もやったし、『はぐれ刑事純情派』とか。映画だろうがテレビだろうが現場は同じ。テレビ大好きですし」

 村川は松田の映像作品としての遺作となった「華麗なる追跡」(※日本テレビ系、89年10月放送)の監督を務めた。それも運命。互いの原点となるテレビのアクションドラマで再会し、放送翌月に永遠の別れを迎えた。

 来年は傘寿となる。「俺は死ぬまで、俺が『いいぞ』というやつが出てくるまでは頑張ろうと思ってる。俺は、ひっくり返るまでは絶対負けない。まだまだやりますよ」。村川流の“俺節”に耳を傾けていると、80代で新作を量産するクリント・イーストウッド監督の境地に達しようかという未来図が見えてきた。=敬称略=

 (デイリースポーツ・北村泰介)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

芸能最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(芸能)

    話題の写真ランキング

    デイリーおすすめアイテム

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス