73歳最高齢デビュー演歌歌手の復活唱

 「70歳過ぎの演歌歌手が一人でデビュー曲のキャンペーンをしているらしい」-。音楽仲間から、こんな情報を耳にした。だれもが思うのは「冗談でしょう!そんなのは演歌歌手が下積み時代にやること」だろう。しかし、こんな男が実際にいたのです。昨年12月23日、キングレコードから「越冬(ふゆ)の酒」でデビューした石塚ひろしがその人。昭和17年、青森県弘前市生まれの73歳。キングによると、男性ソロのプロ演歌歌手としては最高齢でのデビューだという。

 石塚を取材し、キャンペーンの真偽を確認した。すると、キングの担当者があっさりと事実を認めた。「最近は時間があると“一人夜キャン”やってるんですよ。カラオケのあるお店に入り『越冬の酒』をかける。そして『実はこの歌、私の曲なんです』とCD売ってるんですよ。こんな人見たことないですね。流しの修行したことが生きてますよね」という。あるヘルスセンターにも飛び込みの“営業”をかけ、交渉の末に歌謡ショーの開催を決めたそうだ。

 石塚は15歳で中学を卒業すると集団就職で上京した。中学時代から母に三橋美智也、春日八郎、三波春夫らのレコードを聴かされ、自然と歌手を志すようになったいう。ホームシックにかかり数カ月間青森へ帰ったこともあるが、歌手の夢が忘れられず再上京。流しの付き人的な仕事もしたが、26歳で結婚すると同時に生活のため、歌の世界から遠ざかった。

 「26歳で歌をあきらめた。いや、あきらめたはずの自分がいたんですが…」と振り返る石塚。しかし、よく話を聞くと一度も歌手をあきらめていなかったことがよく分かる。「30歳を過ぎてから『民謡でもやったら』と勧められて、尺八の菊池淡水先生に弟子入りしたんです。先生に『歌でも歌ってみろ』って言われて、津軽民謡の『十三の砂山』を歌ったら、先生に『いますぐ使える』って言われまして。尺八習いに行って、歌を習うことになったしまって…」と頭をかく。津軽三味線を習った際にも、師匠の前で歌った津軽民謡の「津軽山唄」を絶賛されたそうだ。

 石塚は歌をあきらめたという一方で、自分の歌唱力には自信を持っていた。その声が出なくなってしまったのが、夫人が2012年にガンを発症してからだ。「舌がんの手術は成功したんですが、ノドに転移してしまいまして。妻は11歳年上でしたが、認知症の症状も出ていたんです。人間が変わってしまうんですよね」。夫人は14年に亡くなったが、ストレスで声が出なくなり、石塚は“歌を忘れたカナリア”状態になってしまった。

 やっと声が出るようになり、カラオケで歌う石塚にデビューのチャンスが訪れた。昨年の夏、石塚の行きつけのスナック関係者が作曲家の四方章人氏にカラオケで吹き込んだCDを渡すと、とんとん拍子に話が進み、10月にレコーディング完了。12月のデビューとなったが、今年1月6日付のUSEN HITランキングでは、演歌/歌謡曲部門で初登場第3位という好調な滑り出しを見せている。

 「15歳で歌手を志して73歳でデビュー。58年越しの夢を実現することができました。レコード大賞の新人賞を取れたら最高ですね。いつか弘前でもコンサートをやりたい」

 58年の月日は重い。石塚の人生には学ぶことが多々あるが、もうひとつはこれ。カラオケスナックで70歳すぎの長身瘦軀(そうく)で短髪の男が「これ、実は私の曲なんです」と歌い出したら、その男、おそらく石塚ひろしでしょう!?

    (デイリースポーツ・木村浩治)

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