王貞治が語る 100年続く早実フィーバー

 母校の早実について語るソフトバンク・王貞治会長
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 高校野球100年の大きな節目を迎えた今夏、1915年の第1回大会で4強入りした伝統校が再びフィーバーを巻き起こした。夏は29度目の出場だった早実(東京)だ。かつて王貞治、荒木大輔、斎藤佑樹らが甲子園の主役となり、今夏は1年生スラッガー清宮幸太郎が注目された。高校野球ファンに愛される「早実」について、今夏の開幕試合で始球式を務めた王に聞いた。

 王が開幕試合で始球式を務めた今夏は、個性的な選手たちの活躍で盛り上がった。頂点に立ったのは東海大相模(神奈川)だが、開幕前から最も注目されたのは1年生スラッガーの清宮が中軸に座る早実だった。

 王「(甲子園で)100年の歴史がある学校というのはなかなかないし、『早稲田』という名前にも親しんでもらっている。僕の時代、荒木の時代、斎藤の時代、清宮がいた今年。僕の前にも榎本(喜八)さんたちがいた。親子三代で早実のファンという方もいるくらいだからね」

 57年春には2年生の王が左手指のまめをつぶしながら「血染めのボール」で優勝。80年夏は1年生エース荒木を擁して準優勝し、2006年夏は斎藤の快投で初優勝。4強に進んだ今夏も含め、王は早実の快進撃には共通項があるという。

 王「今年、斎藤、荒木、そして僕のときも戦前の予想とは全然違った。予想以上の活躍というか、予想以上の戦いをするんで、ファンもびっくりして見てしまうんでしょう。僕のときは(選抜の優勝旗が)箱根の山を越えたことがそれまでなかったからね」

 超高校級の左腕投手として甲子園の主役となった王は、強打でも注目された。58年春には2試合連続本塁打を放ち、後に「世界の本塁打王」となる片りんを見せた。

 王「(自身の)あの年代は投高打低だったし、ホームランの数も少なかった。一つの大会で10本も出なかったんじゃないかな。僕は3年の春に2本打ったけど、左打者がレフトに打ったって驚かれたよ」

 甲子園の土を踏むたびに高まった王と早実の人気。58年の東京大会決勝は神宮球場に3万人の大観衆が集まったが、明治に延長で逆転負け。5季連続出場を逃した。甲子園に出発する明治ナインを東京駅で見送ったエピソードは有名だ。

 王「(明治戦の敗戦は)ショックだった。そのまま勝っていれば、プロに行かずに大学に行ったんじゃないかな。(見送りは)当時の部長先生が『東京代表のチームを送ろう』ということでね。いい方に解釈してもらえるのは、早実の伝統なのかもしれないね」

 東京を代表する伝統校として甲子園で長い歴史を刻んできた早実は、都会的で洗練されたイメージがあるが、王の記憶にあるイメージは違う。

 王「僕たちは(学校があった)早稲田から電車で30分かかるようなところ(武蔵関グラウンド、東京都練馬区)で練習していたから、普段は東京のチームって感じはしないよ。畑の中の野球場で練習やって真っ黒でさ。土日は遠征ばかりでね。同じ早実でも違う部の人とは、かけ離れていた感じだったもんね」

 もっとも、王のころから早実は高校野球の最先端を走っていた。当時の総監督が米国野球に詳しく、本場の情報を研究していたからだという。

 王「情報が少ない時代だったが、セーフティースクイズなどもいち早く取り入れていた。戦法や野球の進め方などは随分先を行っていたんじゃないかな。早実に入ったことで4度甲子園に行けたし、あそこまでやらなかったら、プロにもつながっていない」

 王の後も、早実は甲子園のヒーローを輩出した。荒木は「大ちゃんフィーバー」を起こし、斎藤は「ハンカチ王子」として優勝。ともにアイドル的な人気を誇った。そして今年は「清宮フィーバー」に大いに沸いた。

 王「荒木は5度甲子園に出て、若い女性にすごい人気があった。斎藤も全国制覇したし、清宮も準決勝までいったからね。ファンは伝統だけでなく、意外性も求めている。清宮という新しい存在がいた今年は、その両方があったのかな」

 王は早実からプロ入りし、打者として大成した。1年生ながら、Uー18(18歳以下)日本代表に選ばれた清宮には「王2世」の期待がかかる。

 王「お父さん(ラグビーのヤマハ発動機監督の克幸氏)も厳しいし、早実ということで本人も自分の立場を理解している。ああいうヒーローが出てくると、高校野球界だけでなく野球界全体が話題になる。ヒーローはみんなが望んでいるけど、つくれないからね。順調に伸びてほしい」

 王、荒木、斎藤、そして清宮。これほど多くの世代で甲子園を沸かせたチームは数少ない。これからも高校野球ファンは胸の「WASEDA」の文字に胸をときめかせ続けることだろう。(文中敬称略)

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