「福福荘の福ちゃん」が海外初上映

 北イタリアで開催中の第16回ウディネ・ファーイースト映画祭が5月3日まで開催中だ。

 同映画祭は、欧州で日頃観る機会のないアジアの娯楽映画を紹介することで人気なのだが、映画会社「タッカーフィルム」と連携して配給やDVD販売も手掛けており、貴重な欧州市場への窓口にもなっている。

 その「タッカーフィルム」など、日・英・独・伊・台の5カ国が共同製作に携わった作品が、お笑いトリオ「森三中」の大島美幸主演『福福荘の福ちゃん』(藤田容介監督、今秋公開)だ。

 今回、同映画祭で海外初上映されたのを機会に、3人のプロデューサーに話を聞いた。

 集まったのは、英国「サードウィンドウズフィルム」のアダム・トレル氏、ドイツ「ラピッド・アイ・ムービーズ」のステファン・ホール氏、そして日本からは合同会社「naniiro」の新井直子さん。「タッカーフィルム」のサブリナ・バラチェッティさんは本映画祭プレジデントでもあるため多忙中、台湾「ジョイント・エンターテインメント」のジェームズ・リウさんは残念ながら今回はイタリア入りできなかった。なかなか5人のプロデューサーが一同に介せないのが多国籍プロジェクトならではだが、いずれも相当の目利きたちとして国内外の映画関係者のみならず、アジア映画ファンの間で知られるスゴイ面々なのである。

 例えば「サードウィンドウズフィルム」は園子温、三池崇史、塚本晋也監督作を配給。「ラピッド・アイ・ムービーズ」は、いまおかしんじ監督のピンク・ミュージカル『UNDERWATER LOVE~おんなの河童』(11年)を日独合作で製作した経験も持つ。「タッカーフィルム」は、滝田洋二郎監督『おくりびと』(08年)を海外でいち早く紹介。「ジョイント・エンターテインメント」は、昨年の映画界で旋風を巻き起こした中野量太監督『チチを撮りに』(12年)や砂田麻美監督『エンディング・ノート』(11年)などの配給を手掛け、日本の新鋭たちを台湾に紹介した。

 そして新井さんは、藤田監督の前作『全然大丈夫』(08年)のプロデューサーも務めている。このメンバーを結びつけたのが、この『全然大丈夫』であり、藤田監督の才能なのだ。プロジェクトの発起人はトレル氏。新井さんが笑いながら言う。「一番最初のミーティングの時のことを思い出しました。アダムは『ぶっちゃけ、脚本を読まなくてもフジタの作品なら俺は何でも良い。フジタなら確実に面白いから』って。私には、そういう決断はムリ」。

 藤田監督は若手映画監督の登竜門「第10回ぴあフィルムフェスティバル」入選などを経て映像の世界へ。松尾スズキが主宰する劇団「大人計画」の舞台映像などを手掛けてきた。『全然大丈夫』も、「大人計画」所属の荒川良々が主演のゆる~いコメディ。藤田監督自身は「出品されていたことすら知らなかった」そうだが、ドイツの日本映画祭「ニッポン・コネクション」でニッポン・シネマ賞(観客賞)や、ウディネでも観客賞の第3位に選ばれている。

 アダム氏が言う。「『全然大丈夫』は英国でも人気がありました。でも日本のコメディを(文化の違いなどから)海外で配給するのは難しい。もし、このメンバーで製作から入って、それぞれのコネクションを活かして映画祭への出品、そして配給へと繋げていけたらできるんじゃないかと思って。何より皆、この映画が売れるコンテンツかどうか?で判断するのではなく、本当に映画が好きで監督へのリスペクトがありますから」。ホール氏も「このメンバーでコラボレーションできるのが、何より光栄」と語る。

 映画『福福荘の福ちゃん』は、大島が丸刈りの“おっさん”を演じる人情喜劇だ。藤田監督は大島に『男はつらいよ』シリーズをオススメし、撮影前に大島も観賞したようだが、現代版寅さんといった趣だ。

 脚本は藤田監督のオリジナル。通常、こうした国際プロジェクトとなると、やれ「海外の人にも分かりやすくしろ」とか、「ビッグネームの俳優を起用しろ」とか売りやすくするために外野が口を出してくるのが常だと聞く。

 しかし藤田監督は「そういうことは一切なかった。むしろ、自分の方が意識していた部分はあったけど(海外のことを)考えても仕方がないので、単に自分が面白いと思うものをやるしかないと思った」と振り返る。

 トレル氏も説明する。「米国のミラマックスのような大手はそういうことをやるかもしれないけど、俺たちは違う。俺たちが意見を出したら、皆、同じような作品しか生まれなくなってしまう」。それを聞いた新井さんは「本当に、幸せな監督ですよ」としみじみと語る。

 実はこのプロジェクトはリスクヘッジという意味だけではなく、何より自分たちが惚れ込んだ藤田監督を世界に売り出したいという気持ちが強いようだ。実際、カンヌやヴェネチアといった三大映画祭はここ数十年、日本からは北野武、三池崇史、河瀬直美、是枝裕和など同じ顔ぶれしか選ばれていない。彼らの作品が選ばれる理由は、製作段階で欧州の配給会社が決定していることが大きいが、端から見れば、日本映画に関心が薄いのか、はたまた新たな才能の発掘を怠っているかのようにも見えるのだ。

 トレル氏も声を荒らげる。「日本には若くて優秀な監督が多いのに、大きな映画祭のプログラマーは、配給会社から情報をもらった映画しか見ず、自分で探していないんじゃないかとすら思える」。その対抗策が今回のプロジェクトであり、まずこの5カ国での配給を決めて可能性を広げていきたいという。

 その大きな役割を担うのが国際映画祭だ。『福福荘の福ちゃん』は3月の沖縄国際映画祭を皮切りにウディネ、そしてドイツのニッポン・コネクション、台湾の台北映画祭、南アフリカ・ダーバン国際映画祭、カナダ・ファンタジア映画祭、英国・レインダンス国際映画祭と世界中を巡回して、映画ファンへの認知度を高めていく。彼らの口コミは馬鹿にできない。すでにウディネでも、「面白かった」という評判が広まってきている。

 新井さんが本音を漏らす。「正直、最初は共同製作が実現できるのか不安もあった。でも実際、海外配給が最初から決まっていたことで、国内の出資者を募る効果もあったし、精神的にも助けられた部分もあります。そして今ようやくウディネに来て(共同製作の効果と実感が)じわじわ来てます」。

 福ちゃんは走り始めたばかり。今後の展開を見守りたい。(映画ジャーナリスト・中山治美)

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