ブラジルが宿願の地元V 「五輪コラム」
不覚にも涙がこぼれた。サッカーの男子決勝でブラジルが因縁の相手ドイツを破った。長い苦難の歴史を乗り越え、地元で初めて頂点に立った。1-1で突入した延長でも決着せず、PK戦にもつれ込んだ最後のキッカーはネイマール。国民的ヒーローが決めた優勝は、地元サポーターにとってはもちろん、サッカーのためにも喜ばしい結末だったと思う。
▽攻撃陣にスイッチ 1次リーグのブラジルは2試合連続のスコアレスドローで、敗退の危機もささやかれた。3戦目のデンマーク戦に4-0と快勝すると、攻撃陣にスイッチが入った。フル代表のエースでもあり、オーバーエイジ枠で加わったネイマールは、準々決勝のコロンビアでは先制点を挙げて2-0。6-0で圧勝した準決勝のホンジュラス戦は2ゴールで勝利に貢献していた。 決勝の相手はドイツ。育成には定評があり、組織力と高い技術を兼ね備えた好チームを送り込んでいた。前半26分にネイマールが大会通算4点目となる直接フリーキックを決めてリード。ブラジルは後半14分に今大会初失点を許して延長に持ち込まれたが、足を引きずりながらも攻撃の起点になり続けたネイマールらイレブンの闘志は最後まで衰えなかった。 ▽念願の地元優勝 「サッカーいのち」のブラジルにとって、地元での優勝は念願だった。今から66年前、ブラジルで1950年に開かれたワールドカップ(W杯)では、勝つか引き分けで決まる試合で隣国ウルグアイにまさかの敗戦。「マラカナンの悲劇」と語り継がれる屈辱的な負けだった。 当時9歳だったペレが、悲嘆に暮れる父を「いつか僕がブラジルを優勝させるから」と慰めたことは有名だが、その言葉通りにブラジルはW杯を5度制覇して長くサッカー王国の座を保ってきた。 しかし、欧州勢に押される立場になり、2年前に母国で開催したW杯では準決勝でこの日の相手、ドイツに1-7の歴史的大敗。ネイマール自身も背骨骨折の大けがで戦線離脱し、国民を失意のどん底に突き落としていた。 PK戦。自らのシュートがゴールに突き刺さったのを確認したネイマールは、顔をくしゃくしゃにしてピッチに座り込み、チームメートと歓喜に身を浸した。6万4千人が埋め尽くした同じマラカナン・スタジアムが、文字通り大きく何度も揺れた。 「この金メダルがどれほど大きな意味を持つか分かっていた」。若くして数々の修羅場をくぐり抜けてきたネイマールでも、これほどの重圧の中で戦ったことはなかったかもしれない。 この優勝で今大会のブラジルの金メダル総数は過去最多の6個となった。様々な困難や非難の中で開いた南米初の五輪の舞台で、そのメダルはいっそうの輝きを放つことだろう。(船原勝英)




