競泳 北島康介の金メダル以上の偉大さ

 今月行われた競泳の日本選手権で、五輪2大会連続平泳ぎ2冠の北島康介(33)=日本コカ・コーラ=が現役を引退した。リオデジャネイロ五輪の代表入りを逃した最後のレース後は、会場が万雷の拍手で功労者をたたえ、多くの関係者が涙ぐんでいた。その光景を目の当たりにし、あらためて存在の偉大さを実感した。

 エース後継候補の萩野公介(21)=東洋大=は「北島さんのぶんも、これからの日本競泳界を引っ張る」と宣言。それでも、偉大なる壁についてこう語る。「人間として応援されて、尊敬されて、みんなが大好き。そこが唯一無二で、王者に必要なもの」。

 自身は日本人離れした泳力を誇りながら、東洋大で指導を受ける平井伯昌コーチからはたびたび心の弱さを指摘されてきた。いつも引き合いに出されるのは、同コーチが中学2年の頃から指導する北島の存在。「五輪で金メダルを取る人間は、行動や言動で、周りから尊敬されなければいけない」。苦しい練習をしていても、常に周りを明るく元気づけるベテランの姿に圧倒された。

 リオ五輪にむけた日本代表の1次合宿では、監督を務める平井コーチが「金メダルを取るのは目標であって、目的ではない」と再三選手たちに伝えていた。その言葉の裏には「勝てば何をしてもいいわけじゃない」というメッセージがあったように思う。くしくも日本選手権の期間中に、バドミントン日本代表で金メダル候補だった選手が賭博行為を行ったことが発覚。スポーツが社会を震かん、失望させたタイミングとあって、その言葉が重く響いた。

 勝利を追い求めるあまり、ともすればメダル至上主義に傾倒しがちな日本のスポーツ界の革命的存在だったのが北島だった。「有言実行型で、大きなことを言って注目を浴びながら、影でものすごく努力する」(平井コーチ)。

 金メダルという偉業だけでなく、その活躍は社会に活力を与えた。「チョー気持ちいい」「何も言えねえ」などの名言が流行語になったのは、その証左だろう。記者として競泳を担当したのは1年ほどと短い期間だが、その直感的かつ含蓄あるコメントに、メモを取りながらうなずくことが多くあった。人々から愛され、応援されることこそが、北島が不世出の超一流アスリートとである最大の証だった。

 萩野以外にも、北島の“遺産”を口にする選手は後を絶たない。長く北島に心酔してきたリオ最年長代表の松田丈志(セガサミー)は「若い選手が多いので、康介さんが残してきたものを伝えていかないと。ジュニア気分ではダメ。スポーツ界では不祥事もあったし、代表を背負う責任を伝えたい」と覚悟を示した。男子平泳ぎの小関(ミキハウス)や渡辺(早大)も“ポスト北島”として強い決意をにじませる。

 影響は水泳界にとどまらない。小学5年までは水泳をしていたというバドミントン女子のホープ山口茜(再春館製薬所)は、印象に残る五輪の場面として、競泳のレジェンドの細かなしぐさを挙げた。「北島さんがレースの前に胸をつねって赤くなっていたのをすごく覚えている」。遠征先のマレーシアで北島引退のニュースを見たと言い、「最後まで勝負して、男らしかったと思う」と感銘を受けていた。

 長く苦楽をともにしてきたまな弟子の引退で“北島ロス”を不安視していた平井コーチは、真顔でこうも話していた。「今の代表に、社会を巻き込むほどのインパクトのある選手はまだいない。そういう起爆剤になるような選手が出てきて欲しい」。

 4年後には東京に五輪がやってくる。金メダルの数だけでなく、国民の心をぶち抜くアスリートの登場を記者として、ファンとして期待したい。(藤川資野)

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