藤浪、想像を超えるラフプレーに「腹は立ったけど…」

 【2012年9月14日付けデイリースポーツ記事より】

 8月下旬から韓国・ソウルで行われた野球の18歳以下の第25回世界選手権に出場した日本代表は結局6位に終わったが、甲子園組を中心とした高校球児たちは、勝負とは違う国際試合の厳しさを味わった。

 「野球とベースボールの違いかなと思った」と言ったのは、予選第2ラウンドで米国に敗れた後、甲子園春夏連覇の大阪桐蔭・藤浪晋太郎投手が口にした言葉である。この米国戦では、大阪桐蔭で藤浪投手とバッテリーを組む森友哉捕手が米国選手に本塁上で2度も体当たりされ負傷した。日本の高校野球ではまず考えられないプレーだったが、藤浪投手は「腹が立ったが、あれが1点を必死に取りにいく米国野球」と言ったのが印象的だった。

 ▽接触プレーも視野に

 体当たりを当然とする米国選手。ぶつかって来るとは思わなかった日本選手。野球規則では「捕手はボールを持たないで、得点しようとしている走者の進路をふさぐ権利はない」とされている。簡単に言えば、返球を捕球したか捕球する寸前にだけ捕手は塁線(ベースライン)上に位置できるとなっている。走者との接触プレーが起きる可能性まで否定していない。

 だから日本のプロ野球などでは捕手のブロックが認められ、走者がそれをいかにかいくぐって得点するかが求められる。しかし、日本の高校野球では接触プレーでのけがを事前に防ぐためとして「捕手はベースの一角を必ず空けておかなければいけない」と指導している。捕手と走者の激しい接触プレーはまず見られない。もし日本高校野球連盟が危険防止の観点から各国に規則改正を訴えても、多分「国際基準」とはならないと思う。

 ▽信じられない走塁妨害

 今春の東都大学リーグでこんなケースを見た。走者が本塁の2、3メートル手前に来た時点で、返球を受けた捕手がベース前で待ち構え楽々とタッチ(接触プレーはなし)したが、なんと球審は「ベースの一角を空けていなかった」との理由から危険プレーと見なして捕手の「走塁妨害」による得点を認めた。プロ野球に多くの選手を送り込んでいる東都大学でさえこれだからびっくりした。東都のある監督は「接触プレーに慣れていないので、社会人野球チームとのオープン戦などでけがをさせられることになる」と嘆いていた。

 さらに付け加えるなら、高校野球界ではよく「教育上こうだ」とか「危険すぎる」と言うが、ルールはルールでしかなく、もう少し緩やかな適応を考えてもいいと思うが、どうだろう。危険を言うなら、硬球自体が危険なのである。

 ▽赤鬼伝説

 藤浪投手の「野球とベースボール」を聞いて、ある外国人選手を思い出し、日米の野球文化の違いに思いが至った。1987年に来日したヤクルトのボブ・ホーナー内野手。全米のドラフト1位選手で、大リーグでは10年間で218本塁打を打った正真正銘の現役大リーガーだった。故障もあって規定打席不足ながら打率3割2分7厘、31本塁打、73打点と、まさに本物助っ人の活躍で、その風貌から赤鬼と言われ人気が爆発した。

 しかし、ホーナーは狭い球場、バントや小細工野球、そしてなにより画一的な長い練習に嫌気がさし「地球の裏側にもう一つの野球があった」と言って、わずか1年で日本を去った。日本プロ野球は外国人選手の出来が勝敗を左右する傾向にあるが、かつては優勝に直結する大物外国人の獲得を各球団が競った。天は二物を与えず、とは古今東西変わらないが、外国人選手の扱いに手を焼く球団がほとんどだった。

 ▽文化の違いの理解を

 プロ野球選手を通じて日米の文化論を書いたのが「菊とバット」や「和をもって日本となす」などの著者、ロバート・ホワイティング氏である。「イチロー革命」ではイチロー選手が米国の野球ファンの日本人に対する意識を変えたとも書いているが、それはさて置き、ホーナーのこんな言葉を紹介している。「日本流のやり方がいいのか悪いのか、わたしにはわからない。ただ、わたしにいえることは、それがわたしの理解を越えているということである」。日本はチームワークから入り、米国は勝ちながらチームワークをつくっていく、といった違い。外国人選手とのトラブルは「意見を言わせない」「異を唱えさせない」ことから発生している。もちろん、金稼ぎにやってくる“不良外国人”はいたのだが、日本のフロントや監督が彼らの文化を理解しようとしないことが最大原因だった。

 ▽ベースボールに戸惑うな

 野球の国際化はさらに進む。日本の高校生が世界選手権に出場したのは2004年のダルビッシュ(レンジャーズ)や西武・涌井秀章投手ら以来、2度目という。日程上、夏の甲子園大会と重なるため不出場が続いていたが、裾野の広い高校野球界には甲子園組に限らずとも、選手はいるだろう。ぜひ、今後も国際大会にどんどん出て行って、世界と戦ってもらいたいと願っている。技術レベルが高い日本の球児たちが「ベースボール」に戸惑わないためにも。

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