10・19川崎球場の真実…今なお語り継がれる名勝負の舞台

 1988(昭和63)年10月19日。ロッテと近鉄のダブルヘッダーは「10・19」と呼ばれ、今なお名勝負として語り継がれている。その舞台となったのが川崎球場だ。ペナントの行方を決めた運命の本塁打。打たれた阿波野秀幸(52)=巨人3軍投手コーチ=と、打った高沢秀昭(58)=マリーンズ・アカデミーテクニカルコーチ=が、28年前の大勝負を語った。(文中敬称略)

 閑古鳥が鳴くと言われた川崎球場も、あの日ばかりは様相が違った。「10・19」。すさまじい熱気に包まれた。

 近鉄は残り2試合でマジック2。つまりダブルヘッダー連勝が優勝の絶対条件だった。それ以外は全日程を終えていた西武の4連覇が決まる。そんな2試合で、命運を握る場面を任されたのが、エース・阿波野だ。17日・阪急戦(西宮)での120球完投敗戦から中1日。先発の柱として14勝を挙げていた2年目左腕は、第1試合から過酷なマウンドに上がる。

 1点勝ち越した直後の九回無死一塁、打者・山本功児のカウントが2ボール0ストライクとなったところで出番が来た。抑えの吉井理人が先頭打者に四球を出した際、判定にエキサイト。山本のところでも興奮が収まらず、監督の仰木彬がたまらず交代を告げた。

 「準備はしてたけど、イメージは全然違った。2ボールからリリーフなんて見たことない」。ダブルヘッダーの第1試合は九回打ち切りというのが当時の規定。追いつかれた瞬間に優勝は消える。2死を取ったが、満塁に…。最後は得意のスクリューボールで森田芳彦を三振に仕留め、夢をつないだ。

 「これで次も勢いに乗っていける」と阿波野は感じていた。しかし、第2試合は悲しい結末を迎える。1点勝ち越した直後の八回、連投のマウンドに送り出された阿波野に、ロッテの4番・高沢が立ちはだかった。1死。フルカウントからの6球目、真ん中低めのスクリューをすくい上げると、左翼席へ14号同点ソロが吸い込まれた。

 阿波野はあらためて勝負の1球を振り返る。捕手・山下和彦のサインはストレート。首を振ったことに「サイン通りに投げていたらどうなったんだろうという過去への興味はあるけど、スクリューはあの日、調子の良かったボール。あの打席で(2球目と3球目に)2度空振りも取って、スクリューならかえって本塁打にはならないだろうと思った」と選択に悔いはない。

 ただ、打たれた球は空振りさせた2球より若干高かった。もう少し低く投げていればとの問いには、こう答えた。「高沢さんが年間30本塁打もする打者ならもう少し低く狙っている。だがアベレージヒッター。ヒットも四球も一緒。だから、ストライクゾーンに近いところで打ち損じを狙って投げた」。そして、ポツリとこう言った。「ちょっと低いボールを下から運ぶ打ち方だった。読み負けでしょうね」と。

 だが、高沢は「スクリューを狙ったわけではない」と首を振った。「僕のバッティングスタイルは、いつも真ん中やや外寄りの真っすぐに合わせている。あの時も真っすぐをライト方向へ打とうと思って待っていた。そうすればボールを長く見ることができ、落ちたり逃げたりする変化球にも合わせやすい。6球目も外へ沈んでいった球がバットの先に当たり、ヘッドがうまくかえった」。狙い打ちではないと言う高沢は、直前の5球目を大きなポイントとして挙げた。

 2-2からの5球目、内角高めのスライダーがわずかに外れた。「あの球は頭の中にイメージしていなくてビックリした。僕の打ち方だと内への球には弱い。あれがストライクだったら見逃しか空振り三振だったかも」。さらにはこの試合の第2打席で左前打を放ったことも、もう一つのポイントになっていた。

 高沢は阪急・松永浩美と首位打者争いをしていた。18日終了時で打率・328の高沢が1位で、2位の松永は・323。阪急の残り3試合はすべてロッテ戦だったから、高沢が「10・19」を終えて松永を上回っていたら事実上、首位打者が確定する。リードを保つリミットが6打数無安打だった。

 第1試合は3打数無安打。そして第2試合、もしこの打席でも倒れていたら、第3打席(凡退)を終えたところで退いていたはずだ。本塁打を打った八回の打席は、あるいはなかった…。

 勝負のアヤ、運命の糸。多くの人の記憶に残る本塁打のおかげで「今でも『あの近鉄戦の高沢さん』ってよく言われるんですよ」。高沢はちょっぴり照れくさそうにしつつ、「僕の野球人生が凝縮された試合だったと思う」と語った。「10・19」が財産なのは阿波野も同じだ。

 「僕は勝敗を握るところで2度投げ、(2試合目は)打たれた結果が残っている。でもその後の野球人生や指導者として1球の重みを考えたら、体験している強みになっていると思います」

 ファンの胸を打った名勝負。野球場としての役目を終えた今も、この舞台を全国の野球ファンが訪れるという。

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