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〝始まりの瞬間〟サラブレッドの命をつないでいくために死力を尽くす人たち

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 胸がいっぱいになった20分間だった。競走馬としてターフを駆け抜けるサラブレッドたちだが、彼ら、彼女らは一体どのようにして生を受け、どのような環境で成長するのか?“原点”を知るべく、北海道・浦河町にある辻牧場さんを訪ねた。競走馬の生産、育成、調教までを一貫して行っている牧場で、今回記者は馬の出産が行われている繁殖部門で取材させてもらった。

 2月半ばから4月にかけてピークを迎える馬の出産。繁殖部門の場長を務める藤澤義幸さんは「この時期はすぐ動けるようにしておかないといけない。朝5時までは1時間おきにアラームかけてるよ」と口にする。

 人間とは異なり直接口で気持ちを伝えることのできない馬。馬房での動きや目に見える体の変化でサインに気づく必要がある。深夜から明け方にかけての出産が多く、スタッフたちは交互で厩舎の待機所に泊まり、全馬房を常にモニターでチェックしている。出産前には馬房の中をグルグル回ったり頭を振ったりと落ち着きが無くなり、身体的にも乳房が膨らみ、乳が漏れて乳頭に白いヤニがついたり、ボロがドロドロになったりと多くの変化が見られる。「出産前の様子も1頭1頭違う。その都度その都度しっかり見て考えないといけない」とは藤澤場長だ。

 出産が始まったのは、17時40分ごろだった。一度近くの宿泊施設に戻り夜に備え、シャワーを浴びていた記者は慌ててぬれたままの髪の毛を1つにまとめ、厩舎まで飛んで行った。すると、母馬は立った姿で破水しており、すでに子馬の前脚が膣から飛び出ている状態だった。体中の筋肉がキュッとなった感覚を今でも鮮明に覚えている。

 程なくして母馬は横たわり、呼吸が荒くなっていく。藤澤場長は「赤ちゃんが入っている袋がおなかの中から出てきたら脚や頭が正しい位置で出てきているか確認しないといけない」と膣の中に手を入れ、入念に確認する。場長が出てきた袋を破ると、羊水とともに子馬の顔が現れた。ぐったりしている子馬の姿に鼓動がだんだん速くなっていくのを感じたが、スタッフの方々はいたって冷静。うなり声をあげて、何度も態勢を変えながら懸命に踏ん張る母馬を静かに見守っていた。

 子馬の肩が出てきた段階でひと息つき、「でかいなあ。よし、引っ張るぞ」と男性スタッフが3人がかりで前脚を持ち、一気に引き出しにかかる。母馬は深く呼吸し、力を振り絞る。破水から約20分。新しく誕生したサラブレッドは鹿毛の女の子だった。母ハートフルデイズ、父ウエストオーバーの血を引き継ぎ、これから競走馬としての宿命をつないでいく。

 生まれてからわずか5分ほどで、本能的に母の乳を求めるように口を動かし、必死に立ち上がろうとする子馬。「牝馬の方が立ち上がるのが早いね。大体40分くらい。牡馬だと1、2時間はかかる」と藤澤場長。まだ安定しない脚を何度も前に突き出し、自分の脚で立とうと挑戦する姿を、その場にいた誰もが彼女が無事にデビューできる日を願って見守っていた。

 場長は「生まれてから競走馬になって、デビューするまで本当に順調にいけばいいなと思うよ」と生産や育成、調教に携わる全ての方々の思いを代弁する。命懸けで出産に挑む母馬。命をつないでいくために死力を尽くすスタッフたち。そしてこれからバトンを受け取る人々。競走馬としてターフを駆け抜ける1頭1頭には、いろいろな熱い思いが詰まっている。この日の尊い20分間は、競馬記者として一生忘れることはできないだろう。(デイリースポーツ・小田穂乃実)

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