「日本最長距離ドン行列車」に乗ってみよ!JR西日本一日乗り放題きっぷを利用

 徳山駅に停車中の369M。先頭車両は屋根上のクーラーが特徴の“珍車”「クハ115-608」
 停車中の369M
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 ドン行列車の旅。“乗り鉄”ならずとも一度はあこがれるものだが、「日本最長距離ドン行列車」が西日本を走っていることをご存じだろうか。山陽本線の369Mは、岡山から下関間384・7キロを7時間33分かけて走り抜ける。「青春18きっぷ」のシーズンではないが、オトクな「JR西日本一日乗り放題きっぷ」を利用して、夜の山陽本線“空腹と尻痛との闘い”に挑んだ。

 ◇   ◇

 岡山駅で旅立ちを待ち構えていたのは短い4両編成の115系。70年代から日本全国の直流区間で活躍してきた国鉄近郊型電車だ。行き先方向幕の「下関」が異彩を放つ。

 “鉄ちゃん”とおぼしき数人が、やたらと先頭車両をシャッターにおさめている。よく見るとこの車両、屋根上のクーラーが他の同型式と違い、昔の特急や急行型電車に使用されていたものと同じ型が6個載っている。車両番号は「クハ115-608」。端部の製造銘盤をみると、昭和41(1966)年製とある。実に50年前の車両が、いまだに現役で走っていることに驚いた。

 この「608」の車内は“昭和の香り”満点だ。今となっては懐かしいボックスシート。しかも初期型だから幅が狭い。さらに狭くて暗くて、なんともいえぬ臭いが漂うトイレ…。

 16時17分に岡山を発車。ボックス席に男子高校生数人が乗ってきた。テストや部活や下ネタ…。ついつい耳に入ってくる。少し汗臭かったのも“青春の香り”か。車窓には黄金色の田園風景が広がる。もうすぐ稲刈り。あぜ道に咲く真っ赤なヒガンバナが映える。

 お尻が痛くなりかけた頃、窓に瀬戸内海が見え始め、大きなタンカーが真横に近づく。尾道に近づいたようだ。尾道駅のうどんはだしが絶品なのだが、ここはグッと我慢をして乗り過ごす。

 福山、尾道、三原-。369Mは沿線帰宅ラッシュの重要な足にもなっており、多くの乗客が入れ替わる。西に進むにつれて、乗客たちの言葉のイントネーションも微妙に違ってくるのが面白い。

 19時05分に広島着。猛烈にお尻がイタイが、まだ行程の半分もいっていない。こまめに座席を移動したり車内を探検しながら紛らわせる。「さっきからコイツなんやねん!?」という他の乗客の視線もイタイ。

 21時27分に徳山着。33分の停車。確か駅そばが夜遅くまで営業していたはず…と思ったら、橋上駅になった新駅舎では20時で店は閉まっていた。なんとか缶コーヒーで空腹をしのぐ。

 厚狭(けさ)を夜中の23時17分に発車。車内の乗客は数人。クハ115-608はラストスパートに入る。揺れる車内、隣の車両からうなるモーター音、コンプレッサーの音…。新型車両にはない“国鉄型の鼓動”がなぜか眠りを誘う。

 23時50分、尻痛と空腹にフラフラになりながら下関到着-。乗務員も途中交代しており、岡山から乗り通したのは私だけのようだ。深夜の誰もいないもの悲しいホームが、達成感よりも寂寥(せきりょう)感を募らせた。

 総走行距離384・7キロ、7時間33分、停車した駅は84を数えた。お尻の痛みとともに、貴重な車両で山陽本線を下ったことは忘れられない旅になった。冬の「青春18きっぷ」のシーズンには、ぜひ長距離ドン行列車の旅をオススメします。

 ◆長距離普通列車メモ “古き良き昭和の時代”には旧型客車による長距離ドン行列車が全国を走っていた。61年頃には大阪~青森間1055.6キロを走る列車や、80年代でも門司~福知山間595.1キロを走った普通客車列車が有名だった。その後、電化や簡素化で客車列車は姿を消していった。

 現在では岡山~下関の369Mのほか、滝川~釧路の2427Dは、308.4キロを8時間21分かけて走る「日本最長時間」普通列車として鉄ちゃんに知られている。そのほか大都市圏でも敦賀~播州赤穂間を走る新快速や、熱海~黒磯間の湘南新宿ラインを走る列車がある。

 ◆鉄道の日記念 JR西日本一日乗り放題きっぷ JR西日本管内の普通列車自由席および宮島フェリーを自由に乗り降りできる。また金沢~糸魚川間の「IRいしかわ鉄道」、「あいの風とやま鉄道」「えちごトキめき鉄道」の普通列車自由席も利用できる。

 ただし、新幹線、特急・急行、グリーン車を利用する場合は特急・急行・グリーン券の他に別途乗車券も必要になるので注意が必要。23日までの発売・利用で料金はおとな3000円、こども1500円。

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