苦い過去を糧にする話

 【9月30日】

 大山悠輔の先制弾を見て彼との懐かしい話を書きたくなった。新聞で古いネタを書くな…センパイからそう教わってきたので気が引けるが、6年前の思い出をちょっとだけ。

 プロ4年目の20年、岡本和真と本塁打王を争った大山は120試合制(コロナ禍)で28発放った。村上宗隆と2位タイでタイトルには届かなかったが、あの年、僕はひそかにゲンを担いでいた。大山が本塁打を重ねる中でふと、気づいた。自分の出勤日と彼が本塁打を打つ試合が綺麗にシンクロしていることに…。よし、それなら巨人戦は出勤しよう。僕は単純な男だから勝手に「大山と相性がいい」と信じ込んでいた。ただ、「縁起」の類は口にしない方が…。そんな気がして、シーズンが全て終わってから紙面に書いた。

 実は、今年も大山とは「相性」がいい。本塁打とのシンクロは今年は出勤日、ではない。まだ言わないが、本人は気付いているだろうか。試合前に僕と大山が…いや、終わってから書く。 さて、古い話といえば、センパイから「昨日の話も要らん。目の前のことだ」とよく言われた。だから、一日前のネタも気が引けるが、誤解を解きたいことがある。雨天中止になった29日のヤクルト戦について一つだけ。

 「なんでグラウンドにシートかけてへんねん!」。あの夜、記者席の背後からファンの声が聞こえてきた。この時期のゲームはプラチナ…荒天が恨めしかったに違いない。もちろん球団はやりたかった。できれば10・1をV決戦にしたかったから。ならば、せめて内野に大きなシートを敷いていれば、「やる気」が感じられたのに。虎党はそんな思いだったか。確かに、おとといの夜はグラウンドが雨ざらしだった。

 「台風予報の日にシートを敷けば、強風で破れてしまうリスクがあるんだよ。破れてしまえば、それこそ取り返しがつかなくなるから…」

 阪神園芸、甲子園施設部長の金沢健児はそんな説明をする。なるほど…。万一暴風でシートが破損すれば、溜まった雨水が一気にグラウンドに流れ込む。そうなれば神整備も無力…。過去にそんな苦い経験があるからこそ、冷静に「敷かない選択」をした。甲子園を見守って38年。金沢一流のリスクマネジメントである。

 雨上がりの甲子園はいたずらな黒土が顔をのぞかせるのか。時折、白球が不規則に跳ねた夜だったが、ハルトの快投で守り切って0を並べた。

 打っては幸先よく栄光への架橋を描いた大山だけど、前述の6年前を掘り起こせば、ほろ苦い記憶も甦る。実は、あの年の大山はヤクルト戦での本塁打が極端に少なかった。Vを争う巨人との直接対決はよく打ったが、対ヤクルトは2本。同カードで11本の岡本がキングに輝いただけに口惜しかった。

 今年はヤクルト戦で6発目。カード別の打点は最多。個の数字を本人は気にしてないだろうけど、僕の中で6年前の「リベンジ」は続いている。

 さあ、巨人戦。きょうもゲンを担ごうか。最後までジコマンの「相性」を信じてみようと思う。=敬称略=

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