打つしかない。打つしか

 【6月5日】

 間もなくサッカーW杯北中米大会が開幕する。日本の初戦は伝統の強豪国オランダ。球界でもその日を楽しみにする者は多いし、最近は敵国の特集を報道で見る機会も多くなった。

 「あなたのチームは優勝候補か」。 そう聞かれたオランダ代表監督ロナルド・クーマンがおもしろいことを言っていた。

 「強いチームだと信じている。ただ難しいことに我々は常に攻撃的なプレーで勝つことを求められる。その考え方を巡り、報道陣との戦いになることもある」

 歴代のオランダ代表は攻撃的なチームである。今大会の初戦も、おそらく日本は自陣で我慢の時間が増える。ただクーマンは相手によってはディフェンシブな戦術を取りたい。が、そうすれば、自国メディアの厳しい論調に晒される。時に記者も敵に回して…。

 日本プロ野球のどこかのチームと似ている?

 阪神は優勝候補か?指揮官の藤川球児にそんな質問をぶつけたことはない。もし、開幕前に聞いていれば、球児はどう答えただろう。

 我々は投手を中心にした守りの野球を求められる。その考え方を巡り、報道陣との戦いになることも…いや、球児はそんなことは言わないだろう。我々メディアが何と言おうが、哲学を貫く。長丁場だから得点力が落ちる時期もある。それでも、とりわけセンターラインは守りに重き置く用兵をする。

 そして、その守りに信頼を置く者が打てば、言うことはないのだ。

 快勝した楽天との第1Rで肝になったシーンを球児に聞いてみた。試合後の会見で確かめたのは、2点リードの六回1死三塁の采配だ。前進守備を突破する渋い打球を中前へはじき返した熊谷敬宥は素晴らしかったが、この戦況で熊谷に「打たせた」球児の采配にこっちは唸った。打者は小技もきく。三塁走者は快足高寺望夢。何でもできる戦況だったが?そんなふうに問えば、球児は言った。

 「打つしかない」

 ゲームの肝になったように感じた。

 「打つしかないですね」

 そう言って頬を緩ませた。

 終わってみれば大勝だが、あそこはまだ2点差。それに、次打者は高橋遥人。8番のところで何とか1点が欲しかったはず。熊谷は四回の満塁機で三振を喫していたが、球児の言葉を聞けば一切の迷いはなかったように思う。 あったのは信頼。その信頼に応えた熊谷は七回の満塁機でも打った。走者一掃打を放ち、ゲームを決めた。

 こちらの決めつけだが、この猛打を生んだのは四回の守備だったように思う。平良竜哉のセンターへ抜けようかという打球にダイビングして一塁へワンバンを投げた。判定はアウト。リプレー検証で覆りスーパープレーにはならなかったが、遥人を勇気づける価値ある「好守」だった。球児が評価する「守りで攻める」強みが信頼を呼ぶ。自信が生まれ、猛打に繋がる。打つしかない。いや、お前は打てる…そんなタクトだったように思う。=敬称略=

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