43歳の情熱を心に留める
【3月19日】
松坂世代「最後の大物」といわれた男がこの日の夜、関西国際空港からドイツ・ハンブルクへ旅立った。元阪神投手の久保康友である。43歳の彼はまだ「現役」を続けている。
舞台は野球不毛の地。それでも、情熱をもって…。昨秋、西宮のカフェで久保と待ち合わせ、コーヒー一杯で3時間ほど喋った。
彼がロッテのルーキーだった05年の話題で盛り上がった。19年前の日本シリーズで岡田阪神と対戦し、4連勝で日本一。5戦目の先発が決まっていた久保は「ああいう舞台で投げたかったんでね…(笑)」。なんとか阪神に一つ勝ってもらいたかった…今だから明かせるホンネである。
ロッテ、阪神、DeNAの3球団で通算97勝。18年に米独立リーグ、その翌年からメキシカンリーグで右腕を振り続け、昨年ドイツ独立リーグに「職場」を移した。
まだドイツで投げ続けるの?
コーヒーをすすりながら聞けば、久保は言った。
「チームの監督から『来てくれ』と言われてるんでね」
その言葉通り、24年もユニホームを着る1980年生まれである。
「楽しんでますよ」
目の皺が深くなった久保の笑顔がちょっとカッコ良かった。
さて、こちら福岡で腕を振る43歳。同じ松坂世代…。
ソフトバンク和田毅である。
二回、高めのボール球を大山悠輔にセンターへ飛ばされる(中飛)と、何度か首をかしげていた。
「ここまでうまくバランスが合わないというのは、ここ何年もなかった。納得できるボールが投げられるか。一番はそこです」
試合前日、和田はそんなふうに語っていたという。
おそらく、ここへきて和田はまだ納得していない。結果以上に、そこが大事。そんな表情を浮かべていた。
3月5日のヤクルト戦で序盤に3失点。12日の2軍教育リーグ阪神戦では4回4失点。聞けば、和田はペイペイドーム開幕戦の先発が内定しているそうだが、プロ22年目の現役レジェンドは自身の開幕を「楽しめる」か。
いや、久保の境地とは違う。NPBのユニホームを着て主軸として戦う以上、この夜のように神妙にもなり、年齢に抗う今季は、否が応でも歯を食いしばるマウンドが多くなるはずだ。
親子ほどトシの離れた若虎にとって開幕前にそんな和田の生き様に触れたのは貴重な機会だったと思う。
この日、ソフトバンクは育成3選手の支配下登録を発表した。その一人、24歳の仲田慶介は福岡大から21年の育成ドラフト14位で入団した両打ちの野手である。ドラフト最終の128番目指名だった彼は「『絶対にはい上がってやる』という気持ちで取り組んできました」と語っていた。
力の世界に年齢やキャリアの縛りはない。開幕へ向けたサバイバル。「はい上がってやる」。そんな情熱を岡田彰布は歓迎する。=敬称略=