「普通」を教えてほしい

 【11月1日】

 野球は確率のスポーツといわれる。そういう意味で中嶋聡は博打を打った…そう書いていい。同点の九回である。二度の申告敬遠で満塁とし、オリックスベンチは大山悠輔との勝負を選んだ。

 セ・リーグで最高出塁率のタイトルを獲り、今シーズン最も多く四球を選んだ男の前で塁を埋める戦法をとる。この時点でサヨナラの「確率」は高まった。そんなふうに最後の戦況を眺めていた。

 岡田彰布が球団に掛け合い、四球の査定ポイントのアップを取りつけた-。この情報を知ってから僕はスコアブックのB(四球)を赤ペンで書くことにした。昨年まではヒットとホームランを赤。その他は黒で書いていたが、岡田阪神バージョンで変えてみた。BもHと同等。すると、阪神の戦跡はスコアブックに赤が目立ってしょうがなくなった。

 この夜も九回は真っ赤だ。

 近本=四球、中野=申告敬遠、森下=申告敬遠。こうなれば、もう大山の打席は赤ペンを出して待つしかない。Bか。いや、Hで決めた。大山は、初球、2球目の変化球を「いつも通り」見送った。これで勝負あり…そう感じた。

 打撃コーチの今岡真訪に聞いてみた。岡田がいつも言う「普通」「普段通り」とは、どんなものなのか。今岡は教えてくれた。

 「岡田監督はミーティングで常に言っていますけど、『シーズン中にやっていたことをやれ』ということやと思うんですよね」

 日本シリーズだからといって、特別装いを変える必要はない。個々が気負いなく、レギュラーシーズン通りの野球をすればいい。そういうことである。

 4番の大山は「普通」を遂行した。でも、その「普通」がこういう舞台では難しいのでは?そう問えば、今岡は言った。

 「『今年の普通』っていうのはみんなで打線で点を取ろうぜということでしょ。岡田監督は『ホームラン打たんかい』とは一回も言うたことないですよ。もし、ウチが今年そうやって勝ってきたのであれば、普通イコール『ホームラン打て』でしょ。でも、そんなことは言わない。『線でいこうぜ』ということですよ」

 例えば、この夜、打順がひとつ下がった6番の佐藤輝明の打席を見れば、3三振。序盤は二度、空振り三振を喫し、七回に拙守もあってベンチへ下がった。

 「佐藤輝もどこか、シーズンとは(意識が)少し違うところがあるのかもしれません。短期決戦用に意識がちょっと変わっているかもしれないです。ただ、それが悪いことかといえば、必ずしもそうではないし、僕らも現役のときは(日本シリーズは)シーズンとは違うようなものになってもいいという感覚もあったんですけどね。でも、佐藤輝は(シーズンと)何も変える必要はないと思います」

 4番が全力疾走でシリーズ初打点を挙げ、選球が効いてサヨナラ…。さあ、手に汗握る第5戦を迎える。痺れるじゃないか。でも、虎は普段着でいい。きょうも大山の「普通」を見たい。=敬称略=

関連ニュース

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(阪神タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス