ぶつけるならケツに…

 【9月4日】

 近本光司が右肋骨付近に死球を受けた。3日、神宮でのシーンを見て、思わずこぼしてしまった。

 「ケツにしてくれ…」

 いや、ケツなら当ててもいいというわけじゃない。

 でも、当てるなら、まだ何とか軽症で済みそうな臀部(でんぶ)でお願いします。

 これ、実は、金本知憲の受け売りである。

 投手の名前は書かないでおくが金本が現役の頃、ある試合で左腕から足に死球を受けたことがあった。といっても、金本の場合、厳しい内角攻めは日常茶飯事。幾度となくぶつけられていたので「いつの話?」と問われそうだが、個人的によく覚えている。

 死球翌日の試合前、その投手が金本のもとへ謝罪にやってきた。

 「きのうは申し訳ありませんでした…」

 丁重に頭を下げられた背番号6は笑って返した。

 「今度からケツにしてくれよ」

 このやりとりを遠巻きに眺めて思った。

 なんちゅう会話や…。

 通算死球「72」は歴代の大打者の中では、多いほうではない。よけ方もうまかった記憶がある。 

 そんな金本は、死球によって自身が致命的なケガを負いたくない思いはもちろんあったのだが、一方で、与死球によって相手投手がメンタル的に大きなダメージを被らないか、いつも案じていた。

 実際に、そんな投手側の〈死球禍〉が過去にあった。

 ある年の交流戦でパ・リーグの左腕が金本の頭部へ死球を与え、それ以降、その左腕は内角攻めどころか、制球そのものがおぼつかなくなってしまった。

 いわゆるイップスである。

 それを耳にした金本は、自身への死球で謝罪に訪れた投手…とりわけ頭部死球のそれに対しては、できるだけ当該投手のメンタルを思いやるようになった。

 今回、近本への死球の場合、意図的でないにしても、僕なりに思い出すことがある。

 前述とはまた違うある投手から金本が死球を食らった際、個人的に僕に話していたことがある。

 「まだまだ技術のない投手に厳しく内角を攻めさせるのはな…」

 第一次岡田政権時代である。

 公のコメントではないので、この言葉がメディアに掲載されることはなかったが、岡田阪神でずっと4番を担った鉄人はそんなことを漏らしていた。

 制球の素晴らしい一流がどんどん内角を攻めてくる。これには、阪神歴代最長の4番打者もそれを狙い打つ楽しみを語っていた。が、制球に苦しむ投手に対しては、厳しい内角球で勝負できる制球を身につけてから、どんどん投げてくれたら…そんな思いがあった。

 相手チームの主力にぶつけてしまって、それが大ケガになれば、どうしても反響は大きくなる。報道でも大きく取り上げられる。それによる、当てた側の致命的なダメージを考えれば、金本の思いにも頷く。もちろん、何よりも近本の軽症を願いながら。=敬称略=

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