和田を見ていた男

 【3月5日】

 岸孝之の口元をはっきり読み取れた。「ボールだな…」。三回の先頭、島田海吏を見逃し三振に仕留めた直後である。最後は内角低め。モニターを見れば、まぁ、確かに。岸の呟きはうなずける。

 1ボール2ストライクからの4球目。島田は自信をもって見送ったけれど、球審の手が上がった。低くないですか?島田はそうは言わなかった。でも、そんな面持ちでベンチへ戻ったように見えた。岸にとってはラッキー。「顔」で奪ったKだったかもしれない。

 そんなふうに考えながら島田の次打席に注目してみると、今度は思わず「おっ!」と声が出てしまった。六回である。この試合3度目となるイニングの先頭打者だった。2球で追い込まれた3球目。安楽智大がアウトローを突いた変化球を島田は見送った。球審の右手が上がってもおかしくない絶妙なコース。でも上がらなかった。いってこいか…。自分が島田なら?前打席を思えば、クサいとこは全部いく。オッサン記者はぶつくさ言いながら、それでも島田に言いたかった。よう見た。

 結局この打席、島田は安楽に9球投げさせ、二塁打にした。この回は後続が倒れたけれど、八回にめぐった4打席目は点に絡んだ。1死二塁の状況で追い込まれてから粘り、西口直人の8球目、見送ればボールくさい高めの変化球を右へ運んだ。自身2本目の安打で好機を広げ、近本光司のタイムリーで生還。阪神唯一の得点イニングをつくってみせた。

 1番右翼のスタメンでマルチ安打、そして盗塁。ええやん。◎やん。そのうえで僕は思う。島田が外野の一角を奪い切るためのストロングをもっと、これでもかと見せ続けていければ、レギュラーいけるんじゃないか。

 足もある。肩もある。前監督の金本知憲が17年ドラフトで名指しで欲しがったピースである。球数を投げさせるボディーブローこそ島田の「一芸」であるならば、とことんいこうぜと旗を振る。

 ここで、きのうの続き…。元阪神スカウト今成泰章の訃報を受けて触れた和田豊の話である。

 日大の和田を評価し、1984年ドラフトの3位指名にこぎつけた今成は、和田を「トータルで何でもできる選手」として◎をつけていた-和田は僕にそんな推察を語ってくれた。

 打つ。守る。走る。どれも平均点以上はこなせる。そんな評価をしていただいた-。

 和田は今成との会話を懐かしみながら当時の感情を掘り起こす。そして強くこう言うのだ。

 「たださ、プロに入ってからは(トータルで)『まあまあ』ではレギュラーを獲れないわけでさ。自分としては、なんとか一芸を身につけようと努力を重ねた17年間だったよね…」

 そんな和田が「まあまあ」から脱却するために続けた努力をずっと見ていた人が阪神にいる。

 「(和田は)入団当時はまだバットを長く持っていたからね…」

 証言の主は平田勝男である。続きは次回。=敬称略=

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