選手の気持ちや痛み

 【1月21日】

 キャンプ振り分けが決まった。注目ニュースがいくつかある中で当欄は鶴直人の「タイガースWomen」新コーチ就任に触れる。キャンプ前のこの時期だから「指導者」をテーマに書いてみたい。

 鶴といえば、05年秋の高校生ドラフト1位で阪神に入団した希代の右腕だった。しかし、思うような真価を発揮できぬまま、16年限りで引退。その後は、ジュニア世代を指導する「タイガースアカデミー・ベースボールスクール」のコーチを務めていた。

 現役時代は絡みがなかった。もっと絡んでおけば…。取材しておけば…そう感じたのは、鶴がユニホームを脱いでから。実は、アカデミー時代の彼の指導を何度か見させてもらったことがある。

 失礼ながら、これほど「指導のひきだし」が多い男だとは想像していなかった。概してジュニア世代の指導が一番難しいとされる中で、彼に対するアカデミー生からの人気、そして、その親御さんからの評価はすこぶる高かった。

 まず、野球の「楽しさ」を奪わない。子どもたちのモチベーションを喚起する声掛け、技術伝達の方法も目を見張るものがあった。

 どこかで指導歴でも?

 そう聞きたくなるほどに。

 スポーツ界には、皆さんご存じの格言がある。「名選手、名監督(名コーチ)にあらず」-。

 かつて、野村克也はこんなことを語っていた。

 「スター選手は、自分ができたことは、皆もできると思い込んでしまう。『なぜ、こんなこともできないのか』と。その言葉がどれだけ選手を傷つけるか。スター選手は何でもできてしまうから、苦労を知らず、そのため、普通の選手の気持ちや痛みがわからない」

 そういう意味では、プロのステージで痛みを知った、悩みを抱えた鶴は選手の気持ちが分かる。どんなふうに声をかければ…。どんなふうにかみ砕けば…。そんなスタンスがこちらにも伝わる。

 野球に限らない。

 サッカー担当時代に取材した日本代表監督アルベルト・ザッケローニは、わずか19歳で選手キャリアを退きながら、その資質を買われ、地道に実績を積み上げた指導者だった。名門ACミランでは、監督就任初年度にセリエA制覇。年間最優秀監督賞を受賞した。日本プロ野球では、西本幸雄や仰木彬らが実績のない名指導者とされるけれど、プロ未経験のザックの偉業は、およそ日本の野球界ではあり得ないもの。24歳で現役を閉じたジョゼ・モウリーニョのそれもしかりである。

 日本球界でも、そろそろそんな波がきてもいい。僕はそう思っている。NPB経験のないプロ野球監督は、まだまだ難しいかもしれない。けれど、1軍実績が乏しくとも指導者としての資質が買われる時代を待ちたい。その候補者は僕が知らないだけで他にもいるかもしれないし、鶴もいずれは…。指導者のステージを一つ一つ積み上げてゆけば、将来的に〈タイガースmen〉を預かる人材になると、僕は思う。=敬称略=

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