ドラフト5位のロマン

 【6月23日】

 最後の打者、糸原健斗が左飛に倒れ、試合が終わった。確かに七回の4失点は痛かった。けれど、勝てなかった理由はもちろん、いくつかある。野球は、敗戦を誰かに押しつけるスポーツではない。

 ここにきて僕は期待している。何をって糸原健斗の復調である。3月の月間打率・476。4月のそれは・319と、素晴らしい滑り出しを見せた。しかし故障を境に打棒が陰り、5月、6月は「らしくない数字」が残る。

 逆にいえば、糸原が「らしい」働きを取り戻せば、虎は無双になるだろう。だから、期待を込めて書かせてもらう。

 本人に確かめることができれば間違いなく惜しむらくは、四回無死一、三塁でのアットバット。福谷浩司の147キロを叩いた打球は遊撃へ飛んで併殺。この間に三塁走者の佐藤輝明が生還し、1点を返すのだが、僕はモニターを見ながら手を叩いていた。オッケー、オッケー、これで1点差。失礼ながら、この夜の福谷なら何とでもなる、と。しかし糸原本人があの結果に満足しているわけがない。5月4日以来のマルチ安打も、終わってみれば「あそこで…」と悔いている。きっと、そう。

 プロ野球にはロマンがある。そう思いながら、きのうは青柳晃洋のハナシを書いた。だって、彼はドラフト5位だから。高校時代は甲子園と無縁だったし、大学でも全国的には無名だったし…。

 それでもプロ野球で花開く。しかも大輪の…日本を代表する投手にまでなるのだから夢があるし、アマチュア界の希望になる。

 ロマンといえば、糸原だってそうだ。彼は青柳より一年あとのドラフト5位で阪神にやってきた。甲子園に出場し、中国地方では名が通っていたが、大学、社会人時代の知名度は高くなかった。

 それでもプロで花開く。伝統球団でキャプテンを担うようになり今年「名誉キャプテン」と呼ばれるまでになった。レギュラーとしてチームに欠かせない存在になったのだから、やはり夢がある。

 青柳がドラフト指名された経緯は当欄で何度か触れたし、糸原も以前少し触れたことがある。

 僕の知る限り、糸原のそれを書くために取材するべき重要人物は広島にいる。

 「正直、目立つ存在ではなかったよ。あの中国大会まではね」

 広島のトレーニングクラブ「アスリート」代表の平岡洋二は懐かしそうに語る。当欄の読者にお馴染みの平岡は、糸原の母校・開星高校でトレーニング指導をもう何年も前から行う。金本知憲や新井貴浩、そして、ダルビッシュ有も師事した、この業界でその名を知らぬ者はいない指導者である。

 「糸原が高校に入ってきたときは、当時30人くらいの一年生の中で際だった存在じゃなかった。高校一年6月のデータが手元に残っているけど、ベンチプレスは50キロで9回。47キロで10回が(この年の開星の)1年生の平均だったからまあ、普通だよな」

 3戦目の糸原に期待するから、この続きは明日。=敬称略=

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