この人のために腕を振る

 【4月26日】

 そうか…もう、79歳か。昭和17年生まれだから親父のひとつ下。デイリーを退社して17年になる元上役は変わらず元気だけど、髪はまた少し薄くなった気がする。そりゃ、僕もトシをとるはずだ。

 「風ちゃん、元気そうやな。ええ顔色しとるわ」

 久々に平井隆司と会った。平井といえば、デイリースポーツ虎番の大先輩であり、僕にとっては恩人。報道部長、編集局長時代に世話になった上司だけど、退職後も年に一度くらい芦屋で会う。

 昨年の今ごろも「メシいこか」と約束しながら、コロナ禍で延びた。今年は変異株とやらで…いやコーヒーくらいならと昼時に平井の自宅近くで待ち合わせた。

 あえて確かめたことはないけれど、その昔、僕を虎番に推したのはこの人…だと思っている。

 「毎日、取材ノート、読んでるで。後でもう一回読み返したいときはスクラップするんやけど、結構、ノートに貼ってある」

 大先輩…恐縮です。

 デイリーから出向し、サンテレビ常務も務めた平井だけど、退職後もライターとしてはまだ現役。他媒体で執筆を続けている。

 「風ちゃん、ずっとライターやりたかったら書いたらええねん。俺なんかこの前、改発(デイリースポーツ社長)から言われたよ。『平井さん、原稿うまなったね』って(笑)。経験は大事やで」

 平井はマスクをあごまで下げ、笑いジワをつくりながらホットコーヒーをすすった。

 「阪神、今年はいきよるな。力のある若い選手も多いしな。矢野監督の人望はどうや?」

 平井からそんな話を振られ、タイムリーな虎ネタを思い出した。

 「矢野監督の胴上げに貢献できるように精いっぱい腕を振っていきたい」-。

 これは先週末1軍昇格した守屋功輝のコメントである。守屋は矢野政権一年目に初めて1軍キャンプに呼ばれ、57試合に登板。ブルペンの屋台骨を支えた。昨季は故障に苦しんだけれど、矢野2軍監督時代に頭角をあらわした右腕だけに、首位をひた走る今ここぞとばかり、指揮官への「恩返し」を誓ったというわけだ。

 この類は少し「昭和的」な匂いもするけれど、最近では、楽天の浅村栄斗が西武時代の先輩でもある石井一久監督を「男にしたい」と語っていたように、少なからずそういうのってあると思う。

 かつて、専ら選手から人望がない監督のチームが優勝した…なんてエピソードを平井と話したりもしたけれど、やはり「この監督のために」との求心力が強ければ強いほど、それが有形無形の力に変わることも多い。

 20余年前、当時デイリーの報道部長だった平井は、広島へ転勤する僕に便箋6枚の手紙をくれた。まだ大切にしまってあるけれど、平井を「恩人」と呼ぶのはそういうわけだ。幸せなことに今のデイリーにも僕には「恩人」がいる。

 矢野燿大のために「精一杯腕を振りたい」という守屋の気持ちはよく分かる。=敬称略=

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