「感謝」を胸に開幕星

 【3月26日】

 試合前、カジュアルスーツに身を包んだ巨人軍のレジェンドが神宮球場、三塁側のクラブハウスを訪れた。開幕戦に臨む矢野阪神への陣中見舞い…キャンプで臨時コーチを務めた川相昌弘である。

 午後3時前、川相は阪神タイガースのチームバスに先着して球場入り。矢野、そして選手たちを出迎え、激励したのだ。

 そんな川相の期待に応えたかった「塾生」は、みんな硬かった。

 大山悠輔も、木浪聖也も、糸原健斗も…。開幕戦は143分の1ではない。20年以上この世界を取材してきてそう思う。

 なんとか、藤浪晋太郎を守りで援護したい。そんな中で2失策。記録に表れないミスもあった。これがオープニングゲーム。いま、こうやってPCのキーを叩く僕もきっと表情は硬め…何年見てきても、それが開幕戦なのだ。

 プレーボールを待たずに神宮を後にした川相はこのゲームをどう見るだろうか。ミスした教え子たちを責めるだろうか。

 この筆で何度か「3年連続12球団最多失策」と書いてきた。おべんちゃらも太鼓持ちもする気はないし、事実をふさぐつもりもないので、拙守が積もればこの欄に記すこともある。けれど、きょうは特筆しようと思わない。今年は、一年を通して「川相塾」の成果を見てみたいと思っている。

 「川相さんがプロで生きる道を説いてくださいました」

 球団本部長の谷本修はキャンプ後、そんなふうに語っていた。

 川相氏を宜野座へ呼びたい-。

 昨年の秋、球団内でそんな機運が高まったのはお察しの通りだけど、そこでフロント、チーム首脳の中で招聘に最も熱心だったのが昭和39年生まれ、川相と同い年の谷本だった。

 「いいものを、阪神の選手はみんな、持っているんです」

 川相はそう語り、谷本も名手の手ほどきを信じ、託したのだ。

 晋太郎の世代がチームを引っ張って欲しい-矢野燿大の思いが、寒風染みる神宮に確かに刻まれた3・26。晋太郎と同級生の大山が二回にチーム初安打を放ち、六回には勝ち越し二塁打も…そして、終盤は一塁で好守もあった。

 「さすがキャプテン…」

 谷本が神宮のブースで呟いた。

 現職に就いてから毎試合チームに帯同し、ネット裏で戦況を見つめてきた球団本部長が、昨シーズン1本だけ大山の本塁打を見逃したことがある。

 4番の23号弾で巨人に勝った10月2日の甲子園。球場の本部席にあるはずの谷本の姿はなく…。

 父、谷本清生が生涯を閉じた夜だった。

 コロナ禍の異例シーズンを戦うさなか、谷本は身内の訃報を広く告げず、当時、球団内でそれを知る者はほとんどいなかった。

 「感謝」-。

 谷本が亡き父から教わった、心に深く遺る言葉である。

 開幕投手の気迫、新人の涙、矢野の笑顔、そしてファンの喝采。勝たなければ…。難局の使命は、感謝とともにある。=敬称略=

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