ナイフとフォークのマナー

 センバツの九州対決は見応えがあった。昨秋の九州大会決勝の再戦となった福岡大大濠VS大崎は2-1で大濠が制したけれど、野球の神様がどちらに微笑んでもおかしくない、拮抗した熱戦だった。

 4年ぶりに甲子園にやってきた福岡大大濠の監督は八木啓伸。僕の母校立命大出身であり…少し変わった経歴を持つ指導者である。

 大濠時代は主将で4番を担った八木だけれど、立命大では主力になれず、卒業後は硬式野球を引退し銀行マンになった。西日本銀行(現・西日本シティ銀行)で窓口業務、営業マンとして社会性を培い、それが指導に活きている。

 …って、本人に聞いてもいないのに適当なことを書くなと言われそうだけど、こっそり(?)ねっこり取材させてもらっている。

 「昨日も顔を見てきましたよ。雨で中止だったんでね。大濠が甲子園に出るときは(兵庫県内のグラウンドへ)練習を見に行ったりしますし、彼が銀行マンだったときは僕が(現役で)福岡遠征のときに会ったりもしましたし…。大学のときから仲良かったんでね」

 立命大野球部で八木と同級生だった元阪神の葛城育郎である。

 立命大で主将だった葛城と八木はともに地方出身(岡山と福岡)で自然と距離が縮まり、いつも行動を共にする親友だった。

 「本人からはずっと『先生(指導者)になりたい』と聞いていました。本当におもしろい人間ですし…野球に対して真面目ですよ」

 育郎は、センバツ初戦を制した八木を誇らしそうに語るのだ。 

 福岡大大濠出身の阪神選手といえば、浜地真澄。先週ウエスタン・リーグの開幕投手としてソフトバンク打線を圧倒した右腕ももちろん、八木の教え子である。同試合で初回から148、149キロを連発した浜地について2軍監督の平田勝男は「(スピードガンの球速より)もっとキレがある」と絶賛。成長著しい22歳が台頭すればオープン戦優勝した矢野阪神の屋台骨はさらに頼もしくもなり…。

 「浜地の時代は甲子園に来られなかったんでね。今回はどんどん勝ち上がってほしいですね」

 八木の大願成就を祈る育郎も昨年、学生野球資格回復の為に受講が義務づけられる研修を修了し、資格回復が認定された。現在、地鶏居酒屋を営む彼だけに、サラリーマン、一般社会を経験した指導者の可能性に大いに関心がある。

 そんな話を聞けば、センバツで本紙評論を担う星稜名誉監督・山下智茂の言葉を思い出す。

 「松井秀喜らの時代に選手をフランス料理の講習会へ連れて行きナイフとフォークのマナーを学びました。すると、そこからチームは勝ち始めることに。野球以外の人として大事な何かを学ぶことが大きな力になる…」

 開幕まで3日。阪神優勝を予想する筆者はその根拠について、これまでブルペンや守備力の話を書いてきたけれど、力が拮抗する戦いに最後勝ちきるには、実は「野球以外の大事な何か」を尊ぶことが必要なのかも。ふと、そんなことを思うのだ。=敬称略=

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