3つ目をとる難しさ

 【9月10日】

 ユキヤ、ここや!3つ目をきっちり取るんや!面識もないのに馴れ馴れしく呼びながら、僕はテレビに向かって25歳の右腕へゲキを飛ばした。0-0の二回表、2死ランナーなしの場面である。

 宮崎敏郎を遊ゴロ。柴田竜拓を一ゴロ。プロ初先発の斎藤友貴哉がポンポンと2つアウトを取って打席に7番の大和を迎えた。このとき矢野燿大の胸はひとつ。絶対3人で切れ-である。そうすれば次の回は投手で打率・000のM・ピープルズから。流れをここからもっていくんだ…。

 しかし、叶わなかった。

 阪神戦ハイアベレージの大和だから力んだか。8球粘られ最後は変化球が外れて四球。結果的に8番ピープルズを難なく三振に抑えたけれど、2死から与えた四球が2年目右腕の教訓になってしまうのだ。

 先制して迎えた、続く三回である。先頭の戸柱恭孝にヒットを許し、そこから四球と安打で満塁とされると1死から、8月月間MVPの佐野恵太にタイムリーを浴びた。さらに宮崎敏郎に同点犠飛を食らい、四回の打席で代打を送られてしまった。

 初回も簡単に2死を奪いながら与四球。3回を77球2失点で降板した斎藤は「無駄な四球を出してしまった点や、投球リズムが悪くなったことが反省…」と唇を噛んだという。桐蔭横浜大時代に慣れ親しんだハマスタだけに、生涯忘れ得ぬ夜になったはずだ。

 ファームでは、先発転向後ウエスタン・リーグで3試合13イニング連続無失点と抜群の安定感を誇っていた斎藤である。投げっぷりもいいし、カット気味の速球は今後、間違いなく武器になる。

 そういえば、きのう当欄で紹介した元ABCアナウンサーで現在西宮今津高野球部部長の清水次郎がこんなことを言っていた。

 「実況をやっていたときに矢野さんからよく聞いたんですよ。3つめのアウトを取る難しさを。ポンポンと簡単に2アウトをとった後の3アウト目だったり、1死一塁で盗塁を刺した後の3アウト目だったり。一見、ああ終わったと思うような局面で3つ目を取るのが大変だと仰っていて…。現に2死から四球出したら点につながるんですよね。次元は違いますけどプロでも高校でもそれは同じなので、よく生徒には話すんです」

 点の取り合いになったこの夜、逆転を許した六回は先頭打者への与四球から。再逆転した七回は先頭・糸原健斗が粘って選んだ四球から。先頭打者の四球は高確率で得点に繋がるといわれ、その通りになったけれど、そもそも、ルーズベルト・ゲームの入り口になったのは、序盤2死走者なしからの四球…だったわけだ。

 まだまだ、Gを追うTである。〈一縷の望み〉といわれるかもしれないが、最後までどう転ぶか分からない。この日、巨人に負けなかった中日は投手陣が与四球0で踏ん張った結果だ。終わってみれば、あのときの小さなあれが…なんてことは20余年のプロ野球取材で何度も見てきた。=敬称略=

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