成功からは学ぼうとしない

 【3月22日】

 まもなく野村克也の四十九日である。ヤクルトで栄華を極め、阪神で地獄をみた知将は、天国から今年の両軍をどんなふうに眺めるのだろうか。いや、その前に無観客の神宮球場を嘆いているか…。

 僕がこの世界に入った25年前は野村ヤクルトが全盛だった。だけど、当時プロ野球担当でもなかったので、「ノムラの考え」がどんなものかよく知らなかった。もっといえば、阪神時代もよく知らない。当時、まだ虎番ではなかったので、デイリーで「野村語録」を読む程度。だからノムさんが亡くなった先月、実をいえば、野村克也を振り返るネタに困った。

 「人間という生き物は成功からはあまり学ぼうとしないのではないか。成功したとき、勝ったときは、たしかに気分はいいが、それだけに、成功した、勝ったという事実に酔ってしまい、内容を検討するまでにいたらないのである」

 これは、急いで読みあさった著書のひとつ『野村克也人生語録』(講談社)の一節であり、まっすぐ当方の琴線に触れた語録だ。

 数々遺る名言のなかではシンプルなものだけど、「成功体験」なるものが重宝される昨今だから、よけいに噛みしめたくなる。

 テスト生入団で契約金はゼロ。月給7000円でスタートしたプロ野球人生…ノムさんの伝記ものを読めば、必ずこういうくだりに出くわす。もし今の時代に生きたなら、京都府立峰山高の野村克也は、育成ドラフトでプロの門戸をたたいはずだ。「王や長嶋がひまわりなら、俺はひっそりと日本海の海辺に咲く月見草」-。ノムさんを知らない者も、そのキャリアを知れば、この名言にうなずく。

 四回2死満塁でめぐった背番号127の勝負どころ。いけ、暖。オッサン記者は願ったけれど、フルカウントからあえなくショートフライ。力んだか…。幻の開幕カードで、矢野燿大からスタメンに抜擢された育成ルーキー小野寺暖である。2打数無安打でベンチへ下がった彼に声を掛けてみたい。

 「人間という生き物は成功からはあまり学ぼうとしない」-。

 京都翔英高から大商大を経てこの世界へ飛び込んだ小野寺は、当方と同じ奈良市出身(しかも、結構近所なので贔屓目になる)。

 小野寺とはじめて喋ったのは、2月の安芸2軍キャンプ。めずらしい名前の話題を振ってみると、彼はフランクに答えてくれた。

 暖って、どういう由来ですか?

 「あったかい人間になるようにって、つけたみたいです。風っていう名前は気に入ってますか?」

 あ…私??気に入ってますよ。

 「僕も自分の名前、気に入っています。この名前だと、絶対みんなから『暖(だん)』って呼ばれるじゃないですか。誰からも下の名前で呼んでもらえるので、こちらも親近感がわくというか…。小さい頃は、少し抵抗があったんですけど、今は好きですね…」

 支配下登録を目指す小野寺だから結果がほしい。でも、今は悔しい失敗を重ねれば…。いつか、陽の当たる、あったかい舞台で満開の花を咲かせよう。=敬称略=

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