あの地平線…輝くのは…
【8月25日】
この旋律をデイリーの紙面でお伝えできないのが残念である。
「信州なかのナイター」として開催された神宮球場でのヤクルト最終戦は、思い入れの深いアーティストがスタンドを盛り上げた。
ヤクルトの応援歌といえば『東京音頭』。その作曲者である中山晋平が長野県中野市出身という縁で始まった同冠ナイターは、今年で3年目を迎えた。その中野市の音楽アンバサダーを務める女性アーティストが、皆さんご存じの音色で両軍ファンを魅了したわけだけど、いやぁ~、ホントに美声で当方も聞きほれてしまいました。
プレーボール前のイベントで響いた美声の主は「麻衣」。父は映画音楽界の巨匠・久石譲である。スタジオジブリ作品の名曲で名を馳せた…なんて野暮な紹介は要らない。ここまで書けば、以前から当欄を読んでくださっている読者はピンときたかもしれない。
「1年目は『故郷』、2年目は『ゴンドラの唄』、そして3年目の今回は『君をのせて』を歌わせていただいたんだけど、このイベントをタイガース戦で開催するのは初めてでさ…」
そう語るのは麻衣の兄…つまり久石譲の長男・藤澤真木である。
久石事務所を切り盛りする藤澤とは毎月のように都内でテーブルを囲む仲であり、〈今回はあまり大きな声ではいえないが〉彼が熱烈な阪神ファンであることは当欄で何度か紹介した。
藤澤とお酒を飲む度、もちろんタイガースの話になる。昨年までは金本阪神、今年からは矢野阪神を語り合うわけだけど、ファン歴40年超になる藤澤の言葉は重い。
「今いる若い選手を一人でもいいから一流に育ててほしいんだよね。カープの育成なんて理想的だけど、やっぱり僕らファンを含め我慢できない人が多いというか…矢野さんも難しいと思うよ」
開幕の頃は、今年は辛抱強く○○を育てろ!と言っていたのに、夏を待たず、もう限界だから代えろ…そんな声はザラだし、シレ~っと主張を変えるOBもいる。
念願叶い、初めて金本知憲とも食事を共にした藤澤は、阪神監督の「過酷さ」を知ったうえで、それでも〈とりわけ〉生え抜き大砲の育成が「悲願」だと話す。
藤澤とは見解がぶつかることもしばしばある。「CS制度」についてもそうだ。プレーオフ自体は必要だけど、借金を抱えたチームが日本シリーズへの挑戦権を得られる現システムはナンセンス…そう言い続ける当方に対し、藤澤は「僕はCS賛成だよ。寂れた消化試合がなくなるのはいいことだし…」と、今季も猛虎の下克上に期待を寄せている。
あの地平線~
輝くの~は~
どこか~に君を~
隠して~いる~か~ら~
この夜、麻衣が神宮で披露した久石譲作曲の『君をのせて』は、ご存じ、スタジオジブリ初制作作品『天空の城ラピュタ』の主題歌である。神宮球場で阪神が21年ぶりの優勝を決めた、あの頃につくられた旋律だという。=敬称略=