原口家「必然」のボールケース
【6月5日】
原口文仁とはどんな男なのか。大腸がんから復帰を果たし、その初打席でタイムリーを放った阪神タイガースの選手-。野球に全く興味のない方も、TVやネットでそんな情報だけは得たと思う。
「原口という選手を多くの人に知ってもらいたい…広報をしていて、そう言いたくなる選手です」
阪神球団にとって、またプロ野球にとっても、歴史的な6・4から一夜明けたこの日、阪神球団広報の新田慎也は僕にそう語った。
「きのう、原口が代打でネクストサークルに出てたとき、お客さんの歓声が本当に凄かったじゃないですか。報道陣にその時の感想を聞かれて、原口は『(前打者の高山)俊がやりづらい打席になってしまって申し訳なかったですけど…』って。あの状況で後輩への気遣い…。普通、そんなこと思えます?もう、さすがとしか…」
記念すべき復帰タイムリーは最終回だったけれど、この夜は中盤で代打に指名された。矢野燿大が勝負に出た1点を追う五回、1死一、三塁のチャンスで、やはり幕張のファンは沸きに沸いた。結果は空振り三振。文(ふみ)のコメントは番記者の記事をご覧いただくとして、僕は新田と同様の気持ちになって、読者の方に文の人となりを紹介できれば…と思う。
「ふみ、昨夜のあのボール、どうするの?」
「ひとまず、自宅に置いておこうと思ってます。偶然(記念球用の)ボールケースが自宅に一つだけ余ってるんですよ。本当に、偶然一つだけ…。あ、偶然じゃないか。必然ですね、きっと…」
三塁側のベンチ裏で文(ふみ)とそんな会話を交わした。彼は笑っていたけれど、確かに、言う通りかもしれない。
あなたがもう一度ファンの前に立ち、ファンに「ただいま!」を言えた日のために、これを取っておきなさい-。野球の神様が残しておいてくれたメモリアル球のケース。原口家でずっとそこにあったけれど…必然だったと思う。
「いやぁ、きのうは敵ながら感動しました…。しかし、阪神の広報は大したものですね。実は、試合後すぐ新田広報から電話があったんですよ。『きょうのヒーローインタビュー、2人でやらせてもらっていいですか?最初は梅野が一人で出て、その後、サプライズで原口を行かせたいんですよ』って。原口コールがあまりにも大きくて、結局2人同時に出てましたけど、いい演出だと思いますよ」
ホームチーム、ロッテ広報メディア室長の梶原紀章はそんな舞台裏を明かした。梶原も粋で「(原口のインタビューで)何分でもグラウンドを使ってもらっていい。ファンのいる外野までいって歩いてもらってもOK」と、新田に応答したという。梶原も知る原口の人間性がそうさせるのだろう。
「風さん、マスクしてるけど、風邪??体、大事ですからね。体調、気をつけてくださいよ」
夏花粉??対策で、千葉でマスクをつける僕に、文はそんなふうに気遣ってくれた。原口文仁とはそんな男なのだ。 =敬称略=