イチローより、木浪に一票

 【3月23日】

 テレビをつければ、どこの局も朝からイチロー、イチロー、イチローである。電撃引退から2日。野球ファンはまだ余韻に浸りたい…。だからついつい、プレーバックにかじりついてしまうのだ。

 「小さな子は僕が誰だか知らないと思う。小さい子にも顔を覚えてもらえるように頑張りたい」

 松坂大輔が昨年発したこのコメントをふと思い出すシーンに遭った。この日、阪神対オリックス戦のあと、フィールドに野球少年たちが整列していた。彼らのキャップは黒地に白の刺繍でHT。ユニホームの胸にはTigers。そう、阪神球団が昨春発足させたタイガースアカデミー「1期生」の修了式が、ここ京セラドームのグラウンドで行われたのだ。

 アカデミーから巣立つ小学6年生にタイムリーな話題をふってみたのだが、彼らはイチローの全盛期を「よく知らない」という。そりゃ、そうか。例えば、シーズン262安打のMLB記録を樹立した04年はまだ生まれていないし、10年連続200安打達成の10年は幼稚園児。彼らが物心ついた頃、天才打者はもう隆盛を極めたシアトルを離れていたのだから。

 イチロー、松坂の最も輝いた時代をリアルタイムで知らないのが今の小学生である。ならば、彼らにとってのスーパースターって?

 「大谷翔平選手!」

 イチローと同世代の当方からすれば少し寂しいけれど、時代の移ろいはあっという間であり、少年少女の憧れの対象なんて、それこそアップデートがめまぐるしい。

 君たちさ、大谷もいいけど、ほら、もっといるでしょ?君たちの胸のマークの選手達が…。

 「阪神では木浪選手」「めっちゃ打つから」「イケメンやし」

 どんだけ、タイムリーなんや。ま、子どもってそんなもんか…。

 阪神ベンチの中でさえ、イチロー全盛の時代をあまり知らない現役メンバーが年々増えてくる。

 「まだ登録名が『イチロー』ではなく、『鈴木』の時代ですよ。振り子打法でもなかったときですけど、僕は全部完壁に打たれました。バッティング練習みたいに。こっちが投げる球種をすべて知っているのかな、というくらい」

 そう語るのは阪神打撃投手の多田昌弘。虎で数少ない証言者の一人は、カープ投手だったプロ1年目に、1学年上の鈴木一朗とウエスタン・リーグで何度か対戦。抑えた記憶はゼロだそうだ。

 その多田に、聞いてみた。

 味方打者に毎日投じるその目で見るにつけ、木浪聖也がいま12球団最多21本のヒットを打っている技術的な〈根拠〉はあるのか。

 「ありますね~。言わないですけど(笑)」

 社会人出身の木浪は今年25歳のシーズンである。ちなみにイチローは25歳の99年3月、オープン戦12戦に出場し、34打数10安打(打率・294)を残している。

 「阪神の若い選手も、誰が超一流になるか…楽しみでしょ?」

 多田はそう語る。野球少年が憧れるリアルタイムスター…。我が猛虎から、出でよ。=敬称略=

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