「無愛想な目」を探す秋

 【10月8日】

 いま僕が駆け出しの記者なら、誰をターゲットにするだろう。阪神タイガースの最下位が決まった夜、ふと、そんなことを考える。ターゲット…簡単にいえば、食い込みたい選手。この選手の心に入り込んで、ホンネを聞き出せるような関係をつくりたい。もし自分が20代前半の虎番なら、そう思える阪神の選手って誰だろう。

 実は昔、ずっとそんなことを考えながら取材現場へ足を運んでいた。広島へ転勤した90年代後半のことだ。当時のカープでそんな興味をそそられたのは前田智徳、緒方孝市、そして金本知憲だった。そのワケは僕なりにシンプルで、3人がチームで一番取っつきにくそうだったから。何の縁もない広島で、何の共通点もない、ときに近寄るなオーラを発していた彼らと腹を割って喋ってみたい。昔から厚い壁ほどぶち破ってみたいタチだから、何とかして3選手の懐に入りこみたかったのだ。

 前田なんて最初は挨拶さえ返してくれなかった。歳は僕の一つ下だけど、完全に立ち合い負け。とくにバッティング練習の前後なんて、触れば大ヤケド…別に大げさじゃない。当時を知る者に聞けば、みんなそう答えると思う。だからこそ近づきたいと思うのは「ドM」だからか…。とにかく前田、緒方、金本。このトリオのスナイパーのような(!)眼光に若造だった僕の食指は動いた。

 「糸原さんから挨拶を返してもらえないんです」。どこの社の記者とはいわないが、そんなことを耳にした。いや、おそらく声が小さくて本人に聞こえてないんだろ?なんて思うのだが、もしフツーに返してもらえないのであれば、それは面白い。(こう書いちゃ、まずいのか)。僕がその記者ならとことん糸原に興味が…と思う。

 結果が伴わないのにスカしている選手がいたとすれば、そういう選手は、オッサン記者としては心配になる。確かに前田、緒方、金本は無愛想だったけれど、若い時分から結果を出し続けていた。結果を出せばそれが許されるとも思わないが、それが面白いと感じる者もいるということだ。

 苦悶の結末を迎えた神宮で、案じるのは糸原健斗の容体である。唯一全試合出場の彼がせめて納得のフィニッシュを決められれば…そう思っていただけに、患部が大事でないことを祈りたい。

 メディアに愛想のない(??)糸原が結果を残した理由は、それこそ若い記者がよく取材していると思う。あえて僕との接点といえば、彼がトレーニングクラブ「アスリート」で鍛錬していることくらい。ご存じ、金本や新井貴浩、丸佳浩、鈴木誠也らが礎を築いた広島のジムである。ジム代表の平岡洋二とは旧知なので、糸原のことはよく聞いている。この写真は先週の広島遠征でのもの。ひとり試合前にジムへ出向き、肉体強化に励んでいた。一つのことを愚直に続けることの大切さを結果で示した背番号33の足跡は尊い。

 さて、僕の関心は秋季キャンプへ向かう。久々に無愛想な目つきを探してみようかな。=敬称略=

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