由宇発…阪神は必ず強くなる

 【8月31日】

 朝イチの新幹線で由宇へきた。

由宇(ゆう)…山口県岩国市にある広島カープ2軍の本拠である。

 「あれ?どうしたんですか?」

 球場に着くなり、西岡剛からツッコまれた。なぜ、来たか。ちょっと山あいのマイナスイオンを吸いに…なんてことはない。ウエスタン・リーグ首位を走る矢野阪神のラストスパートを、8月の終わりに観にいこうと決めていた。

 予定通りだけど、このタイミング。ヤクルトに3タテを喫した後だから、甲子園から逃げてきたと思われるか。確かに、一昨日は目を背けたくなる試合だった。蒸し返すのは気が引けるけれど、あれはない。ヤクルト19回戦の五回に起きたボーンヘッド。僕は「阪神が抱える問題の本質はそこじゃない」と書いた。一夜明けて「ない」と感じたのは、あのプレーを公共の電波で論じた解説者の発言だ。

 我が編集局には何台もテレビがあり、ラジオ中継を聴く後輩もいるので、どの局で誰のどんな発言があったのか、伝わってくる。あの夜の一部解説者(阪神OB)は梅野の暴走のみに矛先を向け糾弾していたという。それは、ない。

 2000試合ほどプロ野球を取材してきて、あんなプレーを初めて見た。梅野の状況判断は拙い。が、それが全てでなかったことは誰の目にも明らかである。仮に、あそこで全力で本塁を目指さなかった三塁走者が梅野で、三塁で刺された二塁走者が鳥谷敬だったらあの解説者はどう語ったか。

 「その場合、梅野は叩かれたと思うよ」。これ、僕が由宇で耳にした客観意見。阪神の闇…。これでは若い選手は縮こまらないか。

 ウエスタン広島戦は、八回1死満塁で、あの中村奨成から走者一掃の左中間二塁打を浴び、勝負あり。久々に見た甲子園のスターはカープ2軍打撃コーチ森笠繁にいわせれば「まだ、まだ、まだ」だそうだけど、同トレーナー野口稔が「体は強い」というように、やはり、振る力には天性を感じる。

 「僕らが若い選手に言うのは、まず積極性。積極性を失わせないような言い方をしているつもり。ときにワンバウンドを振ってもいいんですよ。振れない、振らないのが一番ダメ。僕が(中村に)怒るのは、消極的だったとき」。倒れるなら、前のめりに…。森笠は坂本龍馬の精神を説くわけだ。

 10年以来のウエスタン・リーグ優勝を視界にとらえる矢野燿大の野球は、その積極性に「超」を加える。盗塁数はいよいよ同リーグ記録に並ぶ156。矢野イズムの浸透が数字に表れている証しだ。

 「これ、風に話したかな。少年野球のときってそうだけどさ、あれもダメ、これもダメといわれたら、まず野球が楽しくなくなるよな。もちろん、プロだから制限もかかるんだけど、その中で、この場(ファーム)では必要以上に選手にブレーキをかけることはしたくないんよ」。伸び伸びとはニュアンスが違う、前のめりな信念。

 「阪神は必ず強くなる。見ていてそう思うよ」。カープ2軍監督水本勝己の断言を聞いたので清々しく由宇を後にする。=敬称略=

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