古巣に挑む「琢朗メソッド」

 【8月30日】

 打率・270。この数字にピンとくる人は、きっと東京音頭を6番までそらで歌える。ハァ~~と、踊りたくなる数字だと思う。

 試合前の時点でヤクルトのチーム打率は、首位カープの・268を凌ぎ、セ・リーグトップ。前回真中満政権で優勝したチーム打率(・257)を大きく上回る。

 青木宣親、山田哲人ら3割打者が4人もいるし、本塁打王のW・バレンティンも好打率だから、そりゃそうなる。しかし、昨季のチーム打率・234の最下位軍が、一年後に王者とアベレージを争うなんて、ふぎょぎょ!である。

 ホント羨ましいかぎりだけど、一体、燕に何があったのか。今春青木を訪ねて沖縄・浦添のキャンプを見させてもらったが、普段からヤクルトに密着しているわけじゃない。表面的な印象で書くと、信憑性に欠く記事になるけれど…ごめんなさい、今回は表面的に。

 要因は一つじゃないと思うが、分かりやすいのは、メジャーリーガー青木の復帰、それと、やはり指導者の交代だろう。スタッフが刷新された昨秋のオフから、打撃部門を統括するのは石井琢朗。ご存じ、カープ打撃コーチからの転身である。おそらく諸々の事情でヤクルトへ移ってきたと思うが、カープの連覇に貢献した「琢朗メソッド」が新天地でも功を奏している…と考えるのが自然だろう。

 石井と「チーフ&サブ」の関係にあったカープ打撃コーチの東出輝裕はいつも僕に教えてくれた。「琢朗さんは、選手に細かいことは言いません」。そりゃ、教わる側の能力、キャリアによって一概には言えないんだろうけど、練習風景を見る限り、確かに、手取り足取り熱弁という姿は、ない…。

 「選手の気持ちを楽にする言い方なんですよね、いつも」。これも東出談話。例えば、無死満塁、ゲッツーは笑顔で拍手…よくぞ前に飛ばしたじゃないか、と。

 「いやぁ、悔しい…しかないですよ。僕は現役の最後もCSに行けず、カープを退団するときも日本シリーズに行けず…。この悔しさをカープの皆と一緒に、来年に向けてやっていくのが一番なんだけど、そういうわけにもいかないので…。僕自身、この悔しさを来年に活かしていきたいと思いますし、カープの選手たちもこの悔しさを活かしてもらって、ひと回り大きくなった姿をどこかで見ることができれば…と思っています」

 これは昨秋マツダスタジアムの駐車場で石井から聞いた言葉。CSファイナルステージでDeNAに下克上をくらい、赤ヘルナインに別れを告げた夜のことだ。

 広島で有終の美を飾れなかった悔恨が、ヤクルトでの原動力になっている。チーム打率で古巣を上回る…それが石井の矜持なのか。

 虎の借金は9まで膨れた。あと一本が…今季、幾度も見た。これは表面的な印象じゃない。真面目な話…昨秋の燕ではないが、来る秋、フロント主導で打撃低調の根源をつきつめなければならない。五回1死満塁の拙攻?虎が抱える問題の本質は、特にそこが論点の中心ではないと思う。=敬称略=

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