虎は無敗。鯉は6敗…だそうだ

 【8月14日】

 初回6失点。二回に3失点。4イニング自責8で翌日登録抹消…なんだか、あの夜の惨状がもう遠い昔のことに感じてしまう。

 5月11日、マツダスタジアムで背信投球。能見篤史である。

 誰も口にはしなかったけれど、皆、感じていたかもしれない。プロ14年目、通算100勝を目前に能見はそろそろ限界か…。

 いや、あのとき、そんなネガティブな見方をはっきりと否定した人がいた。試合後、球場を出ようとしたら、旧知のレジェンドとエレベーターで一緒になった。

 「風に言っても分からんだろうけど…。前回の登板から中11日でしょ。その前も結構あいていたらしいけど、先発投手って間隔があき過ぎると、難しいものがあるんよ。彼はまだまだできると思う」

 広島OBの大野豊が教えてくれた。カープ一筋22年、43歳まで現役生活を続けた左腕は、この時点で開幕から3試合勝ち星なし、防御率7点台の能見に、それでも限界を見てはいなかったのだ。 

 その後、鳴尾浜で過ごしていた38歳(当時)のもとへ一本の電話が鳴ったのは、5月末のこと。休日を家族と共に過ごし、帰宅する車中、後部席でスマホをいじっていた長男から着信を告げられる。

 「パパ、金本監督からだよ」

 39歳バースデーの直前、能見は転機を迎えることになった。

 金本「中継ぎを頼みたいんだ」

 能見「はい、分かりました」

 指揮官からの打診を能見は二つ返事で快諾した。節目のプロ100勝まであと2つ…この配置転換が意味するものは、よく分かっていた。後に能見本人にそのときの気持ちを確かめてみると「全然、全然。気持ち的にも、まったく迷いはなかったですし、本当に、僕の中でもすんなりと…」。

 高橋聡文が肩のコンディション不良で不在。岩崎優の状態も不透明。中継ぎ左腕を「どうしても」と願った金本の胸中、そしてチーム状況を冷静におもんばかり、6月5日の再出場登録まで、わずかの期間で心身をシフトチェンジ。腕を振り続ける覚悟を決めた。

 この夜もブルペンで待機していた。能見である。自主トレ仲間の岩貞祐太をモニターで見つめ、応援しながら、出番をはかった。

 今季の虎は六回終了時点でリードしていると、37勝1分け無敗。金本待望の「方程式」、その一角を担う能見抜きに語れないストロングポイントだ。

 この夜は六回を終えて同点。ここで念のため、記録部に確かめてみた。ちなみに、カープはどうなの??「今年の広島は六回終了時点でリードした試合は55試合ありまして、47勝6敗2分けです」。じゃ六回を終えて同点の場合は?「え~っと…」。いや、もう大丈夫。「七、八、九」のディフェンスは阪神が一枚上じゃないか。この夜も、それがよく分かった。

 八回は藤川球児が最少失点で凌ぎ、その裏、逆転に成功。出番がなくなった39歳能見の肩はこれで4日間休まったことになる。勝ち方が分かれば、食らいつける。まだ終戦はごめんだ。=敬称略=

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