林威助へのサプライズレター

 【6月5日】

 そのとき、台中インターコンチネンタル野球場を埋めた林威助ファンは沸きに沸いたそうだ。

 「林ちゃん、お疲れ様でした」

 球場の大型ビジョンに映し出されたのは恩人、金本知憲だった。

 今年4月1日、元阪神の外野手で、昨季まで台湾プロ野球・中信兄弟でプレーしていた林威助の引退セレモニーが開催された。そこで、林本人も全く知らされていなかったサプライズ演出が…。

 「いきなり、金本さんが画面に登場したので、びっくりしましたよ。台湾のファンは、皆、金本さんを知っていますから、すごい拍手でしたね。僕は何を言われるのか、ドキドキしましたけど…」

 この夜、林が甲子園へ帰ってきた。今季から中信兄弟の2軍監督を務める彼は今回、阪神球団が毎年催す「台湾デー」で来日(詳細は本紙記事で)。来年1月で40歳になるそうだが、肌つやは阪神にいた頃と変わらない。実は、林とはLINEでまあまあ連絡を取り合っていたので、個人的にはあまりご無沙汰感もない。でも、引退セレモニーでそんな粋なサプライズがあったとは、知らなかった。

 オリックス戦の3時間ほど前、彼はグラウンドで金本と再会の握手、挨拶を交わし「その節は…」とビデオレターへのお礼を言ったそうだ。是非、知りたいなぁ。その映像で、どんな激励を受けたのか。阪神時代は「師弟」ともいえる親しい間柄だった。ファン受けするブラックジョークもあったりして??いや、違ったらしい。

 「これから先、指導者の難しさにぶつかると思います。若い選手がみんな、こちらが思っているように成長してくれるとは限りません。指導者にとって、我慢が必要なことも必ずあると思います。こちらがひと言いえば出来る選手もいますし、そうでない選手、厳しく言わないとできない選手もいます。選手はそれぞれ違うので…」 新人監督へ、超マジメな愛情たっぷりの提言だったそうだ。

 今だから書けるハナシでもあるが、林が阪神から戦力外通告を受けた翌日、僕は彼と食事へ出かけた。13年秋のことだ。店は阪神OB葛城育郎が西宮に開店したばかりの「酒美鶏・葛城」。カウンターの端っこで林は言っていた。

 「阪神で学んだこと、金本さんに教わったことを生かして、いつか指導者をやってみたい気持ちはあります。職がなかったら…この店で雇ってもらいますよ(笑)」

 金本から教わったこと…。当時林からよく聞いた。シンプルなことだ。例えば、併殺を崩す為の一塁への全力疾走…給料にはねかえらない泥臭いプレーを「大事にしなさい」とよく諭されたそうだ。

 「キャンプから厳しい練習をやってきたでしょ。夏場に勝負できる体力がありますよ」。これが苦しむ古巣へ、林からのエール。

 この夜もミスが出た。ただ若いゆえの拙さは起用する側の責任、そして必要な我慢…。口では厳しいことを言うけれど、金本はそう考えている。今こそ大切にしてほしいもの…かつて林へ語ったことと何も変わらない。 =敬称略=

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