「師匠」が語る30発の条件
【2月13日】
エメラルドグリーンの東シナ海を一望する高台にその人はいた。
「おぉ、よう来たな。遠慮せんと、メシでも食っていけよ。で…どうなんや?ロサリオは??」
昨季「韓国シリーズ」を制覇した起亜タイガースの打撃コーチ、正田耕三がチーム食堂まで招き入れてくれた。カープ、そして阪神コーチ時代にお世話になった。一年前の同じ時期にも挨拶へ伺って話を聞かせてもらった。この日はチームが三星ライオンズのキャンプ地を臨時で拝借したようで、沖縄中部の恩納村・赤間運動公園野球場で会うことができた。
昨年はおめでとうございます。
コーチ就任一年目で起亜を「韓国一」へ導いたわけだから、鼻が高いはず…。でも正田のリアクションは素っ気なかった。「今から(打撃投手役で)投げてくるから待っててくれるか」と、連覇しか眼中にない口ぶりで、選手の待つグラウンドへ飛び出していった。
「ロサリオ、良かったやん。まだキャンプとはいえ、実戦でもいいスタートがきれたみたいで」
食堂へ戻ってきた正田とウィリン・ロサリオの話題になると、まるで親が子を思うような目で語り始めた。それもそのはずか。ロサリオがコロラド・ロッキーズから韓国ハンファ・イーグルスへ移籍した16年、当時ハンファの2軍育成コーチだった正田は春先に当時監督の金星根(キム・ソングン)から特命を受け、「ロサリオ担当」として1軍へ呼ばれたのだ。
「あいつ言うことをきかないんだ。お前が面倒を見てくれ」-。
開幕からしばらくの間ロサリオは新天地で結果を出せなかった。正田は当時をこう振り返る。
「最初見たとき(試合で)外のボールが全く打てなくてな。開幕から1カ月はホームラン1本くらいだったから、監督は2軍へ落とすことも考えていたと思う。でも打撃練習を見ると、悪くない。俺が彼に言ったのは『全部ホームランを打つイメージでやったらどうだ』と…。下半身を使ってな」
当時の記事や書き込みを探してみると、確かに正田が指導するようになって1週間ほどで、ロサリオの成績が上がり始めている。
正田は16年限りでハンファを退団したが、2人の信頼関係は続いたのだとか。昨オフはロサリオから正田の携帯に練習の動画が送られてきて「この打ち方でいいか?」と、指南を仰がれたそうだ。
さてさて、正田に本題をぶつけてみた。ロサリオは日本でそして阪神で活躍できると思うか?
「打ち始めると、研究される。厳しい所にも投げてこられる。日本の投手はコントロールがいいからな。そこで、全部打たないと!と考えてしまうとフォームを崩すし、メンタルもつぶれちゃう。だから、我慢すること。あのスイングがあるんだから、自分の打てる球を打てばいい。そりゃ、打てないこともある。そういうときは四球でいいんだ…という考え方ができるかどうか。我慢を覚えたら日本でも30発は打つ。それが俺の見方。賢いし、練習熱心。阪神はいい外国人を獲ったよ」=敬称略=