「史上2人目」を願う

 【10月14日】

 記者席でスコアを記しながら、おっ…とペンが止まった。六回である。福留孝介の先制2ランが飛び出した直後だ。ガッツポーズの主将がダイヤモンドを回る間、ネクストの大山悠輔はバットのグリップに2度、スプレーをかけていた。割れんばかりの大歓声とはこのこと。それでもルーキーははしゃがず、冷静に打席へ向かう。そして、その初球。ほぼ真ん中のスライダーを見送った。この日、初球ストライクは、この打席が唯一だった。積極的にファーストストライクをスイングする。このイケイケの局面で、大山はシーズンで貫いてきた持ち味を封印した。

 狙い球があったのか。あえて手を出さなかったのか。CS中に作戦的なことは答えられない。だからポストシーズンが全て終わってから、大山本人に確かめたい。

 初めてのCSは4打数1安打。彼は納得していないだろうけど。結果の出なかった打席でも「次」を期待できる内容があったと僕は思う。変化球を捉えた八回の安打はもちろんだが、井納翔一の148キロを叩いた第1打席は中堅フェンスまであと1メートルの大飛球。同じく148キロを引っ張った2打席目は痛烈な打球を三塁へ。好守に阻まれたが、バットは振れていた。指揮官が説く「速い真っすぐへの対応」は◎。監督会見の輪がとけた後、金本知憲は「(大山は)良かったよ。今、あいつ状態が良いと思う」と、中身を称えていた。

 金本が大山を初めて1軍に呼んだのは6月18日のことだ。あの時は、まさか4カ月先のポストシーズンで彼をクリーンアップで起用するとは金本自身想像できなかったはずである。シーズン中、このコラムで大山について何度か書いてきた。その中で一つだけ、彼に期待した数字がある。新井貴浩の1年目と同じ「7本」ホームランを打って欲しい。そう書いた。ドラフト順位も期待値も違う。けれど、同じ大卒、同じ右の長距離打者…それに何だか醸し出す人間味というか、新井のようになってほしいと勝手に願っていた。そうしたら、大山は打った。レギュラーシーズン最終戦に甲子園の左翼席へ7号アーチを架けたのだ。

 「7本」にこだわっていたのはおそらく僕だけ(?)だったから実は一人で盛り上がっていた。CSでルーキーに5番を任せた金本に改めて聞いてみた。シーズンで7本塁打は出来すぎだったのか。それとも、想定内だったのか。

 「いや、想定以上だな。打てたほうだと思う。だって、実際に最初上がってきたときは、思った以上に振れてなかったんだから」

 シーズン全143試合の7割以上、ゲーム前の練習を見ている球団常務の谷本修も言う。「昇格当初はスイングが小さいように見えました。あれ?こんな感じだったかな…と思って見ていました。それが1軍に来てすぐに大きくなって飛距離も伸びて…。それだけは私にもはっきり分かりましたよ」

 大山にもう一つだけ、欲を言いたい。ポストシーズンで一発を…。打てば虎の新人では球団史上2人目になるそうだ。=敬称略=

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