人生、乗っけるぞ
【7月23日】
他人に自分の人生乗っけてんじゃねえよ…なんて、阪神ファンに向けて呟いたら、どんな反響があるだろうか。あまりにもシュールで、想像したくはないけれど…。
例の国会議員さんの発言を毎日メディアで拝見する。福田正博や柱谷幸一…20数年前の暗黒時代から浦和レッズを観てきた者からすれば……いや、やめておこう。
縁あって面識ある浦和の李忠成や柏木陽介は、この件をどんなふうに見ているのだろう。故障離脱中の李も、チームの現状に強い危機感を抱いている柏木も、今はそれどころじゃないか…。
他人に人生乗っける。まあ、僕らの仕事も色んな意味でそれに近いところがある。デイリースポーツヤクルト担当の女性記者は連敗を14で止めた前夜、「記者席で本当に祈っていました。打って…って」と真顔で話していた。新聞記者たる者、客観、冷静な視点で…とは昔教わったものだが、毎日、朝から晩まで傍らで練習、試合を取材し、汗も苦悩も喜びも見れば情も湧くし、大ケガすれば本気で心配もする。長年取材してきた選手が現役生活を閉じるとき、涙する担当記者を何人も見てきた。全力で仕事に心身を傾けている者ほど、人生乗っけている-のだ。ファン、サポーターだって、きっとそう。阪神や浦和に限ったことでもない。
例の議員さんは虎党(?)だそうだから、そんなことはあり得ないとして、もし「くたばれタイガース」などと国政に関わる人からツイッターで罵られたら、阪神球団はどんな対応をとるだろうか。そもそも、もしこの議員さんの選挙区が(浦和の)埼玉一区だったら、それでも「くたばれレッズ」と投稿しただろうか…色んな思いを巡らせる今日この頃である。
神宮の阪神ファンに聞いてみよう。中谷将大に自分の人生乗っけている人、いませんか?この夜、左翼席のボルテージがマックスに達したのは、間違いなく中谷が代打で打席へ向かい、大飛球が真っ黄色の渦に消えたときだった。
前夜、中谷は勝負所で命じられたバントを失敗した。大阪が選挙区の、例の国会議員さんがこの試合を見ていたら、果たして「阪神酷い負け方…遊びなのかな」と投稿するだろうか。ファンはスポーツにドラマを夢見る。贔屓の選手に人生を乗っけ、感情移入する。中谷の苦悩を想像するから、雪辱の10号アーチに喝采を送るのだ。
遊びじゃない話をひとつ…。この日、中谷は試合の2時間半前にチームと離れ、神宮外苑の室内練習場でひたすらバントの練習に没頭していた。打撃投手が投げるボール…ときに故意にワンバウンドを投げてもらい、いろんな角度の投球にバットを合わせていた。見守った打撃コーチの平野恵一から「うまいよ」「そう、それだよ」と鼓舞されながら、懸命に…。
レッズの選手にも似たようなドラマがある。例の国会議員さんも彼らのこんな姿を目にしたら、きっと投稿の趣も変わる。だって彼女、めちゃ情熱家っぽいもん…。
僕はきょうから少しの間、タイガースを離れます。=敬称略=