ドミニカンの未来図

 【4月29日】

 20年ほど前、広島のショッピング街「本通(ほんどおり)」でドミニカンの買い物に付き合ったことがある。ハイテンションでジーンズショップを物色していた姿が懐かしい。あの時代にスマホがあればパシャリとやりたくなるシチュエーション。無名時代の秘蔵写真があれば、必ず希少価値がついていたと思う。中途半端な日本語で、時に覚えたての下ネタも口走っていたけれど、とびっきりの愛嬌で仲間の心をつかんでいた。

 アルフォンソ・ソリアーノ。そのキャリアは野球ファンならご存じの通り。広島退団後、ヤンキース、レンジャーズ、ナショナルズ、カブス…。2014年に現役引退するまでメジャーの歴史に輝かしい足跡を刻んだ。シーズン30本塁打&30盗塁、いわゆる「30-30」を4度達成し、うち一度、メジャー史上4選手しか成していない「40-40」も記録。カープでは1軍で2安打しかできなかった華奢なドミニカンが世界屈指のスーパースターになるなんて、あのころはとても想像できなかった。

 「印象的だったのは、肌の水はけの良さ…かな。イルカみたいにツルッツルでさ。え?他に?だって、足も特に速くなかったし、肩も強くなかった。バッティングもね…。まさか、あんなふうになるなんて思わないしさ。結局ダメだった選手もいるし、ドミニカの選手って分からないんだよな…」

 そう話すのはカープ入団時のソリアーノを知る広島2軍チーフトレーナーの野口稔。ソリアーノは広島球団が選手発掘のためドミニカ共和国に作ったカープアカデミーの出身。17歳(公称)で来日し、赤ヘル伝統の過酷トレに励んだが、芽が出ないまま米国に活躍の場を移した。野口はアカデミー出身のドミニカンを何人も見てきたが、その無限大のポテンシャルは未来図に予測がつかないという。

 ドミニカ人は分からない…。確かに、そうかもしれない。虎のドミニカンも予測がつかない。この日、かつてカブスでソリアーノの同僚だったラファエル・ドリスが同点の九回に登板したが、不運も重なり3失点。27日のDeNA戦で藤川球児、呉昇桓に並ぶ月間10セーブの球団記録に到達した守護神が一転、負け投手になった。新記録達成は4月ラストの30日に持ち越されたが、降板時のしかめ面を見ると少し体調が心配だ。

 ドリスは昨秋、シーズン中に痛めた右肘を手術している。一旦保留選手名簿から外したドリスの再契約について、球団内でも意見が分かれていたと聞く。宜野座キャンプでテスト登板し、最終的に獲得を決めた金本知憲とフロントのジャッジがここまで奏功しているが、かつての藤川や呉昇桓のようにクローザーはシーズンを全うして価値が高まる職務。ドリスがきょう新記録を樹立し、肘に不安なく突っ走れば、虎もきっと走る。

 そのハイテンションな気質がソリアーノと重なる。スーパースターへの階段を…広島のドミニカンがそうなると誰も予想しなかったように、ドリスに歩んで欲しい。=敬称略=

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