本塁打と投手心理

 【4月12日】

 4月12日は金本知憲が球史に名を刻んだメモリアルである。2008年だから、あれから9年。40歳でプロ通算2000安打に到達したのが、ここ横浜スタジアムだった。寺原隼人から放った適時打で金字塔を打ち立てたわけだが、本人はこの記念日を覚えているだろうか。試合前に聞いてみた。

 「きょう、12日か。2000本?あ、そうだったな…」

 チームを預かる立場になって、いちいち個人記録の年月日まで気にしている暇はないか…。金本と横浜スタジアムは何かと縁深い。世界記録の連続試合フルイニング出場が1492で途切れたのも、この球場だった。色々あった横浜だが、ハマスタで一番の思い出は実は2000本でもフルイニングストップでもない。本人に確かめたことはなかったが、きっとあれだろうなと思って聞いてみると、予想通りの答えが返ってきた。

 「隆から打った逆転3ランかな。あの時、ヒット狙いだったんよな。軽く振り抜いたら、場外まで飛んでいってさ。終盤の逆転ホームランだったし、無意識にガッツポーズしてしまったんよ。あとは寺原から打った逆転2ランも…」

 2004年7月21日、東北福祉大で同僚だった斎藤隆からハマスタのライト場外へ放った140メートル弾。そして2008年7月6日、9回2死から3点差を跳ね返した寺原からの一発。僕はどちらも取材していたが、金本には珍しく…というか日本シリーズのサヨナラ弾以外見せなかったガッツポーズを、この2発の後はつくっていた。17年間で積み上げた名球会入りの一打よりも、2本の逆転アーチ。本塁打にはそれくらい絶大な魅力があるということだ。

 4番を張り続けた金本だから、本塁打がチームにもたらす効力を知る。今季、戦前から危惧されたのは助っ人打者不在による破壊力不足。それが蓋を開けて見ればこの試合前まで8試合8本塁打でセ最多だった。この夜広島が巨人戦で量産し、リーグトップは譲ったが、五回に飛び出した原口文仁のソロでチーム9本目。シーズンの結果は分からないが、ハイペースは何よりも投手陣の精神安定剤になるはずだ。その効果を投手コーチの金村暁が教えてくれた。

 「得点力が低ければ投手心理で言えばマイナスですよね。先制点を取られちゃいけない、絶対に四球を出せないとなれば余裕がなくなって、投球が苦しくなる。打線がつながり本塁打も出れば違う。去年の広島はチーム内でどんどんストライクゾーンで攻めていけと言われていたと聞きましたし…」

 昨季広島の本塁打数は12球団最多の153本。マエケン不在の不安を感じさせることなく、投手陣の安定感が増した。投手を強気に大胆にさせた、本塁打の魅力…。

 冷や冷やの試合後、金本は言った。「やはりチャンスでの打撃だよな。まずは速い球に負けないということをやってきているから」。本塁打増には特別関心を示さなかったが、結果的には原口の一発が効いた横浜の夜になった。=敬称略=

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