「不安」の先の先に…

 【3月23日】

 ・100。試合前、ヤフオク!ドームの大型ビジョンに映された阪神4番の打率である。二回、遊ゴロに倒れた福留孝介はさらにアベレージを下げ・095。結局この夜は2四球ノーヒット。オープン戦打率1割を切って、開幕まで残り3試合に臨むことになった。

 福留という男を取材するようになって5年目。彼に好感を持てるのは、どんなときも格好つけないところ。取材者として心地いいし、言葉もスッと入ってくる。正直、数字が伴わないベテランの足を止めるのは気が引けるものだが、開幕までにプロ19年目の「現在地」を聞いておきたい。だから、確かめてみた。飾らない気持ちを。

 「打ってても不安だし、打てなくても不安。プロ野球選手って、そんなもんだと思いますよ。オープン戦ですごく調子が良かったら、逆にシーズンは打てるのかなって…。めちゃくちゃ打ってたら打ってたで不安になるものだから」

 大でも小でも「不安」に駆られる。それが百戦錬磨の本音。では福留がプレシーズンで数字を残せなかったとき、本番ではどうだったのか。本紙の記録部に聞いてみた。開幕前の不振といえば一度だけ極端なものがある。僕の記憶とデータが合致したのは中日時代の2006年。オープン戦出場たった2試合。5打数1安打、打率・200という数字が残っている。ケガをしていたわけじゃない。そう。第1回WBCの年である。

 覚えてらっしゃる方も多いと思う。福留は王貞治ジャパンの主軸と期待されながら、2次リーグまで不振を極めた。初戦の中国戦で本塁打を放って以降はサッパリ…。準決勝ではついにスタメンを外れてしまった。大会の通算打率は・182。今さらだが、あのときの真実を聞いてみたくなった。

 「状態はホントに悪かった。フォームも変えていたし、打てる気すらしていなかったから…。初戦のホームランはまぐれ。韓国戦のホームラン…あれはもう、開き直って打った。スタメンを外れたことによって、もういいやと。調子が悪いとか、ああだこうだ考えるよりも、あの場面で代打で行くとなったとき、言葉は悪いけど、もうどうでもいい。とりあえず無心で振ろうと。それだけでした」

 決勝進出をかけた韓国戦。代打で右翼へ2ランを放ち、決勝戦でも代打で2点タイムリー。絶不調男が世界一の立役者になった。「無心」で不振を克服した福留は帰国後わずかな助走で開幕を迎え、そのシーズン、打率・351で自身2度目の首位打者を獲得。落合竜のリーグ制覇に貢献した。

 あれから11年。年を重ねる度に体力は落ちてゆく。何もかもデータで比較するのはナンセンスだが、聞けば、39歳は数字と真正面から向き合っているという。

 「ここまで打てていない中で、自分は今こうなっているなと理解していますから…」

 福留が福岡で明かした「不安」。その先にある「無心」の境地を超えたとき、期待を抱かせる特別な何かがあると信じたい。=敬称略=

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