25年ぶりの後継者

 【2月25日】

 東急東横線の武蔵小杉駅から30分くらい歩いただろうか。多摩川の河川敷からJX-ENEOSのとどろきグラウンドがきれいに見渡せる。今キャンプ前に取材でお邪魔した歴史ある野球場は阪神の小さな名手が育った場所だ。

 「場所は昔と変わらないけど、全面人工芝ですごくきれいになってるでしょ。俺らの時とは施設がガラっと変わっちゃったから」

 内野守備走塁コーチの久慈照嘉はそう懐かしむ。そもそも以前はチーム名も横文字じゃなかった。久慈は日本石油の野球部員としてドラフト指名された選手。そして今、久慈以来の日石…いや、ENEOSから虎入りした内野手が沖縄でアピールを続けている。

 「あいつはしっかり守れるもんな。まずは守れてナンボ。内野手は特にそうだよ。守備がダメだと見なされたら(2軍の選手と)入れ替えようとなるんだから」

 昨秋ドラフトで5位指名された糸原健斗に対する久慈の評価は高い。この日は日本ハム戦で四回に2点タイムリー。大学-社会人で培った堅実な守備力とともに、打でもしぶとさを発揮している。

 阪神の選手が名護の球場に到着すると、ちょうど大谷翔平がフリー打撃を行っていた。故障者とは思えない打球がスコアボードのさらに上を越えていく。虎の関係者はみんな口をあんぐりだ。まあ、こんな規格外の選手は別格として同じプロの世界には小兵で生きる道を探す選手もいる。逆立ちしたってかなわない相手もいる土俵で体格にハンディのある者はどうやって1軍にしがみつけばいいのか。雑談で久慈に聞いてみた。仮に自身が新人で今の阪神に加入すれば、いかにアピールするか。

 「俺はポジションがショートだから、まず北條を押しのけないといけないよな。攻守のトータルで考えたら、打つほうではキツいけど、守備は北條に勝てる(笑)。だから北條に『お前、セカンドいけ、サードいけ』というくらいにならないといけないだろうな」

 身長169センチ。体格、パワーで劣った久慈は1年目のキャンプで自慢の守備力を猛アピール。開幕スタメンを勝ち取ると、同年のセ・新人王に輝いた。自称「173センチ」の糸原が小さな大先輩と同じ歩みを目指すなら、まずは守備力で存在感を際立たせなければならない。糸原が社会人時代に本職にした三塁にはエリック・キャンベル。いま挑戦する二塁のレギュラー最右翼は上本博紀。まだまだ不確定だが総合的に判断して僕はそう見る。ちなみに糸原の今キャンプ実戦打率は21打数5安打(打率・238)3打点。打のインパクトが大きいとは言えない。でも25年前、久慈は打率・245、0本塁打で新人王を獲得している。守備力のインパクトが群を抜けば勝負できる世界なのだ。久慈は言う。

 「あいつの守備は戦力だよ」。 久慈がNPBから新人王の表彰を受けた1992年11月、糸原は産声をあげた。阪神内野手の新人王は久慈以来、出ていない。25年ぶりの後継者をぜひ見てみたい。=敬称略=

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス