元ABC朝日放送・伊藤史隆アナ 実況の名手が伝えるスポーツの臨場感&落語の楽しさ 支配人として神戸新開地「喜楽館」を名所に

 取材に応じる伊藤史隆アナウンサー(撮影・山口登)
 新開地喜楽館をPRするする伊藤史隆アナウンサー(撮影・山口登)
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 今年3月末でABC朝日放送を退社した伊藤史隆アナウンサー(63)が、このほどデイリースポーツの取材に応じた。テレビ、ラジオで阪神戦を熱く盛り上げ、高校野球も彩ってきた実況の名手。印象に残った場面や実況で留意してきたポイントを明かしてくれた。現在は神戸・新開地の落語寄席「喜楽館」の支配人も務めており、落語の魅力も存分に語った。

  ◇  ◇

 明瞭かつ丁寧な語り口が、どこか安心感を与えてくれる。伊藤史隆さんは1985年4月、朝日放送(当時)に入社。「アナウンサーになろうなんて、全然思ってなかったんです」。一般企業に内定をもらうも、大学の学生課で「朝日放送アナウンス職 若干名」の求人票を見つけて応募。偶然に偶然が重なり、入社した。同局は阪神戦の中継や、夏の甲子園を連日放送。「その日、一番のニュース」になる現場から臨場感を伝えてきた。

 テレビとラジオ、実況スタイルの違いは「全くない」と言い切る。点差、状況を伝えた上で「ピッチャー、第1球を投げました」の文言は必ず添える。「ここからやらないと聞いている人は野球場に行けないんです」

 その理由は野球中継を行う意味とリンクする。「球場に行きたいけど、行けない人がテレビを見てラジオで聞いてくださる。“野球場に行きたいのに行けない人たち”を『球場にいる気持ち』にして差し上げたい。ボールが動いていくところをお聞かせすることで、そういう気持ちになっていただける。すごく大事なことで、それはテレビもラジオも同じ」と揺るぎない信念がある。

 虎党の人気を博したのは岡田彰布オーナー付顧問との名コンビ。「岡田さんは野球への感性が鋭い方。『岡田さん、ここを見ているな』ということを自分の中で早めにつかんでいました。それを気持ち良くしゃべってもらうために『はい、どうぞ』という空間を渡せるように」留意してきた。

 約40年の野球実況では後世に語り継がれる名場面に立ち会った。最も印象深いのは新庄剛志(現日本ハム監督)が1999年6月12日の巨人戦で敬遠球をサヨナラ打にした試合。高校野球では98年夏の甲子園、準々決勝で延長十七回の死闘となったPL学園-横浜、2006年の決勝・早実-駒大苫小牧は引き分け再試合も放送席から見守った。

 高校野球の実況では心がけることがある。「どんな結末でも後味の悪い試合はない。勝者をたたえ、敗者はねぎらう。その気持ちをすごく大事にしていますね」と敗れたチームの健闘ぶりにも、必ず目を向けている。

 そして「これはABCの伝統で素晴らしいなと思うんですが、エラーをした選手の名前は言いません。『サードのエラーです』とは言うけど『サード、○○くんのエラーです』とは絶対に言わないようにしてます。たまたまその時にミスしただけであって、気持ちとして強調しないように」と高校生への敬意も貫く。

 アナウンサーと並行して、23年7月に神戸新開地の落語寄席・喜楽館の支配人に就任。神戸大の落語研究会出身で、大学在学時は「各駅亭切符」という高座名を自分で付けた。ただ開館後にコロナ禍が到来。「大学の落研の先輩が(喜楽館の)スタッフで『手伝ってくれないか』と。何ができるか分からないけど、できる範囲で頑張ります」と返答してから現在に至る。

 現代社会の時流と正反対であることが、落語の面白さ。「今は全てが便利になって、可視化やタイムパフォーマンスがもてはやされる時代。落語ってそれに対極をなす、不便な芸なんです」

 演者一人で複数人の役をこなし、場面転換は小拍子で完了。想像力を最大限に働かせた先に自由な世界が広がり、そこには空間と時間の制約がない。「それは人間同士だからできること。どんなAIもかなわないような、人間の底力みたいなもので楽しめる」と醍醐味(だいごみ)を語る。

 それゆえ、大事なのは“入り口”。「スマホを開いたら出てくる芸ではないので“フック”がかかりにくいのかもしれない。だけど、かかったら絶対に面白い」と、きっかけ作りに励んでいる。

 アナウンサーと寄席小屋支配人の“二刀流”。目標は喜楽館を「神戸の名所」にすることだ。「神戸は音楽や文化の面で大人の遊びがたくさんある。『神戸らしい遊び=落語』を楽しむ人を増やしたい。若い噺家さんたちが自由に活躍する小屋にして、その落語を多くの人が見に来てくださる、落語って楽しいと感じていただける場所にしていきたいですね」。今年64歳になる大ベテランはスポーツと落語、双方の魅力を発信していく。(デイリースポーツ阪神担当・向 亮祐)

 ◆伊藤史隆(いとう・しりゅう、本名=いとう・のぶたか)1962年10月25日生まれ。愛知県名古屋市出身。神戸大学を経て85年4月に朝日放送株式会社(当時)入社。野球中継、ゴルフ、ラグビー、陸上を担当し、2011年からは同局のニュース番組『キャスト』のメインキャスターも務めた。97年から現在も担当する『日曜落語~なみはや亭~』は来秋で30年の節目を迎える。

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