“神整備”は「プレッシャーですね」阪神園芸・石躍奈々さん 女性初の甲子園駐在スタッフは全国3位の元GK
阪神が熱戦を繰り広げる舞台裏では多くの人が汗を流し、チームを支えている。裏方の仕事にスポットを当てる企画「密着仕事人」。“神整備”でおなじみの阪神園芸で、4月から甲子園常駐の女性スタッフが初めて誕生した。入社5年目の石躍(いしおどり)奈々さん(26)。学生時代、女子サッカーで全国3位の経験がある元スポーツウーマンが、聖地のグラウンドを精魂込めて整えている。
ホームゲームでは阪神園芸のスタッフ10人ほどがチームとなって、グラウンド整備に取り組む。聖地を担当するグラウンドキーパーでは、石躍さんは紅一点の存在。1979年から甲子園整備を担当する同社にとって、半世紀近くに及ぶ歴史の中で、甲子園駐在の女性スタッフは初めてだ。
「まさか自分がここで整備できるとは思ってなかったので、こんな間近で1軍の人たちが試合してるのを見るのも想像していませんでした。ファインプレーもいいな、すごいなと思うんですけど、それよりもイレギュラーを気にしてしまいます。イレギュラーが起こらないように心がけてるので」。内野手泣かせの“不測の事態”を未然に防ぐため、プロ意識を高く持って日々の仕事と向き合う。
甲子園の所在地、兵庫県西宮市でサッカー少女として育った。小学校低学年では男子に交じってフィールドプレーヤーとしてボールを蹴り、4年生からは女子チームに所属。中学時代にはセレッソ大阪堺レディース(当時)で、ゴールキーパーとして全国3位に貢献した。武庫川女子大学でもサッカー部でインカレ出場も果たしたが、首のヘルニアで引退を余儀なくされた。
就職活動で「スポーツに関わる仕事がしたい」として、地元企業でもあった阪神園芸を選んだ。数ある部署の中で、配属を希望したのはグラウンド整備課。力仕事も多く、“男職場”のイメージも強いが、「小学校の時に男の子の中で女子一人でサッカーをやってたので、男性が主のところで女性一人ということに、嫌な感じは全くなかったです。体力的にもできるかなと思って」と不安はなかった。
入社1年目から3年目までは全国各地の地方球場や学校のグラウンド整備を担当。昨年は姫路球場に責任者として駐在した。グラウンドキーパーとして経験を積み重ねて迎えた5年目、「甲子園施設部」への異動で、聖地が職場となった。
「甲子園は良いグラウンドと思ってくださる方々がたくさんいるので、その期待に応えられるように整備することが一番。雨が降ってもすぐに整備して、どうぞ、とできることにやりがいを感じますね」。天候不良の逆境こそ、阪神園芸の技がより一層の注目を浴びる。代名詞の“神整備”というワードには、「そう言っていただけるのはうれしいことではありますけど、プレッシャーはプレッシャーですね」と苦笑いを浮かべる。
「知識や技術はまだまだなんで、しっかり甲子園で学びながら、将来は年下の子に教えられるようになれたら。女性にもどんどん入ってきてほしいですし、自分ももっと頑張らないといけないなと思います」。入社5年目に任された職場は、野球人あこがれの場所。女性グラウンドキーパーの先駆者として、聖地を整え、聖地に育てられる。
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