【岡田の野球 道一筋3】常人離れした「観察眼」と「野球と向き合う心」
いよいよ発足した第2次岡田政権。4年間の矢野野球が終わり、これから始まる「岡田の野球」とは?デイリースポーツの阪神担当キャップらが、その神髄に迫る。
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あれは2020年、巨人とソフトバンクの日本シリーズを評論してもらっている時だった。攻守交代のイニング間、岡田氏はずっとグラウンドを見つめていた。
何を見ているんだろう?隣でそう思い、自分も目を凝らしつつ、試合は進んでいった。終了後、「しかし、ソフトバンクの野手はみんな全力よ」とポツリ。そこで“答え”を察知できた。通常、野球経験者でも見落としがちになる攻守交代時のボール回しを、初回から九回までくまなくチェックしていたのだ。
「甲斐にしても、二塁送球はずっと全力やもんな。牧原にしても絶対に抜かない。ここに高い守備力の秘けつがあって、強さの秘密があるんちゃうかな」
常人離れした観察眼、そして野球と真摯(しんし)に向き合う心-。誰よりもグラウンドを見て、誰よりも野球を学んできた。2月のある日、自宅のテレビに映し出されていたのはソフトバンクのキャンプ中継。「早く実戦をやるんじゃなくて、基礎練習をみっちりやってるんよな。日本一のチームがこれだけやってるんやで」。阪神が「競争」という言葉の下、第1クールから実戦練習を重視し、課題の守備力強化をおろそかにしたまま進める近年のやり方に警鐘を鳴らしていた。
優勝できるチームへ、変革の旗頭となる指揮官の姿勢。勝つために必要な選手を選ばなければならない。いざゲームが始まれば、この局面でどういう一手を打つか、そして誰に託すか-。その選択を下す根幹となるのが選手を見る、ゲームを見る観察眼であり、新監督の知識に他ならない。
阪神前監督時、総帥として全幅の信頼をもって指揮官を託した宮崎元オーナーはかつて「野球小僧」と岡田氏を評していた。
「監督室で『何であんな采配したん?』と聞くわけですわ。私みたいな素人やったら、次の一手までくらいしか思い浮かばんのやけど…岡田は『これがこうなって、ああなって、こうなるはず。だから、こうしたんです』と4手先くらいまで具体的に説明するんよな。小さい頃から野球エリートで。本当に野球をよく知っている」
そして常に優勝を争った2000年代後半のチームを「監督と選手が『勝つ』ということと、『野球』というところで一体化していた」と回顧する。当時のチームとしての強さを知り得る言葉。その信頼関係を作り上げるために、岡田新監督が日頃から口にするのは「細かいことの積み重ね」だ。(デイリースポーツ・重松健三)