【ターニングポイント2】原口、長い育成期間に大腸がん…幾度の逆境打ち勝った

 人は長い人生の中で、幾度となく岐路に立つ。そんな時に何を思い、感じ、行動したのか。虎戦士がプロに入るまでのきっかけに迫る。「ターニングポイント」は原口文仁捕手(27)。大腸がんの手術から奇跡的な復活を遂げたシーズン。その軌跡に母校の“帝京魂”は欠かせなかった。「甲子園球児になりなさい」。恩師・前田三夫監督(70)の言葉が夢をつないだ。その2。

  ◇  ◇

 09年7月29日。東東京大会の決勝で都立雪谷と対した。初回から6点のリードを奪うが、前田は9点目、20点目にスクイズのサインを出し、勝負に徹した。スコアは「24-1」。それでもマスクをかぶる原口は、不思議な感覚に襲われていた。「1-0の緊迫感がありました。3年間、甲子園だけが目標だった。全てだった。監督に、孫まで自慢できるぞと言われていたので。最後にボールを捕った感覚は、今でも残っていますね」。前田を甲子園に連れていく-。野球部の同期15人。男たちの夢が結実した。

 聖地ではベスト8に進出。4割近い打率を残し、高校日本代表にも選ばれた。3年春まで無名だった男が一躍、プロ注目選手になった。「練習をやらないと勝てない、うまくなれないと思えたのは、帝京の3年間があったからです」。大腸がんを告知された日でさえ、担当医に「練習してもいいですか」と聞いた。猛練習で心身を鍛え上げ、逆境にも耐え得る魂を磨くのが野球部の信条。帝京魂だ。

 前田は原口に贈る言葉として、迷わず座右の銘を選んだ。「今日を励み、明日に挑む」。その言葉は原口の生きざまに通ずる。長い育成選手期間も、ひたむきに、必死に生きた先に復活劇が待ち、球宴2戦連発の快挙があった。テレビで教え子の姿を見た前田は、思わず隣に座る妻と2人、手を取り合って瞳を潤ませたという。

 「病気をしてね、つらい思いもあったでしょう。でも、彼に期待する人がたくさんいる。思いに応えられる人であってほしい。そのためにはね、頑張ることだよと」。強く背中を押す師の言葉は、あの夏と変わらない。「甲子園球児になりなさい」。15歳で聞いた前田の言葉は今も、原口の歩く道しるべになっている。前へ、前へ。不屈の男の物語は、まだ序章にすぎない。

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