遊び食べする3歳長男の手をビシッと叩く祖母 「叩くのは虐待」と伝えたが…体罰をめぐる価値観の世代差どう埋める【社会福祉士が解説】

3歳の長男の母親である和田さん(34歳・仮名)は、帰省のたびに繰り返される、実母との言い争いに心身を摩耗させていました。発端は、食事中に遊び食べを始めた長男の手を、実母(64歳)が「ビシッ」と強く叩いたことでした。

「今は叩くのは虐待になるんだよ。叩く前にまずは言葉で注意してよ」と嗜める和田さんに対し、実母は不服そうにこう言い放ちます。「これくらいのことで虐待?あなただってこうして厳しく躾けてきたから、まっとうな大人になったんでしょう。今の親は甘やかしすぎなのよ」

和田さんの心に沸き起こったのは、言いようのない嫌悪感と、親としての自分を否定されたような虚しさでした。かつての「当たり前」が、現代では「許されざる暴力」へと変容している、このパラダイムシフト(価値観の劇的変化)が、今、多くの家庭で深刻な亀裂を生んでいます。

■体罰が「愛の鞭」と称された時代背景~昭和・平成初期~

60代から70代の世代が生きてきた時代、体罰は「愛の鞭」や「熱血指導」として、家庭内だけでなく教育現場でも広く許容されてきました。

その背景には、「忍耐や根性を養うためには身体的な苦痛を伴う指導が必要悪」とされていたため「スパルタ教育」は正当化されていました。

また、「児童の権利に関する宣言」(1959年)などは存在したものの、実態としては「親が責任を持って子を叩いてでも一人前にする」ことが美徳とされる社会風土があり子どもの人権や主体性より「親による子の育成責任」が強く意識されていた時代でもあります。

彼らにとって、叩く行為は「憎しみ」ではなく「責任感」の表れであり、自らの子育ての成功体験に裏打ちされた「正義」なのです。

■法が定めた明確な一線~2020年施行「改正児童虐待防止法」~

しかし、時代は大きく動きました。2020年4月、改正児童虐待防止法および児童福祉法が施行され、「親権者による体罰の禁止」が明文化されました。

また、厚生労働省の「体罰の禁止及び子どもへの接し方に関するガイドライン」では、子どもへの体罰を「子どもの身体に何らかの苦痛を引き起こし、または不快感を意図的にもたらす行為(罰)」と定義し、たとえ親が「しつけ」のつもりであっても、また、どんなに軽いものであっても、この定義に当てはまる場合は体罰に該当し、法律(児童福祉法など)により禁止されています。

具体的には、叩く・殴るなどの物理的な力の行使(身体的侵害)、長時間正座をさせる・懲罰として食事を与えないなどの肉体的苦痛を与える(身体的苦痛・不快感)、その他身体に不快感をもたらすことを意図した行為(不快感の意図)が体罰にあたるとしています。

この法改正の背景には、相次ぐ凄惨な虐待事件への反省と、「体罰はエスカレートし、深刻な虐待につながる入り口である」という国際的なエビデンスに基づいた認識の変化があります。

■20~30代が抱く「虐待」への危機感と人権意識

デジタルネイティブであり、グローバルな人権感覚に触れて育った20代から30代にとって、子どもは「一人の独立した人格」と捉えています。

この世代には、身体的苦痛だけでなく、暴言や無視といった「心理的虐待」が脳の発達に悪影響を及ぼすということも近年の研究で明らかになってきており、心理的安全性への配慮の必要性を知っています。

また、過去の不適切な養育を「世代間連鎖」として断ち切ろうとする意識が強く、「毒親」という言葉に代表されるような親の干渉や体罰を理解しており、敏感に反応します。

和田さんの世代にとって、実母の行動は単なる教育方針の相違ではなく、「最新の安全基準を満たしていない旧式で危険な行為」に見えている、と理解できるでしょう。

■感情論から脱却するための「構造的理解」と橋渡し

この対立を解消するには、互いの「正義」を定義している「価値観」が異なることを理解する必要があります。

▽1.「価値観のアップデート」が必要だと伝える

祖父母世代にとって、自らの子育てを否定されることは、自らの人生そのものを否定される痛みを伴います。「お母さんの時代はそれが普通だった。でも、今は科学的にも法的にもルールが書き換えられたんだ」と、相手の時代背景を一度肯定した上で、現在の「ルール変更」を客観的事実として提示しましょう。

▽2.「共通のゴール」を再確認する

両世代に共通しているのは「子ども(孫)に健やかに育ってほしい」という願いです。「叩かずに済む最新の効果的な方法(タイムアウト法やポジティブな声掛けなど)」を一緒に学ぶ姿勢を見せることで、「親vs祖父母」という対立から「子育てのチーム」へと移行させます。

▽3.物理的・心理的距離のマネジメント

価値観の相違が埋まらない場合は無理に説得しようとせず、孫との接し方に一定のルール(「叩くなら会わせられない」などの境界線の明示)を設けることも、現代の親としての正当なリスクマネジメントです。

■世代間で深め合う理解

和田さんは後日、自治体が発行している「体罰によらない子育て」のパンフレットを実母に手渡しました。そして、感情的になるのを抑え、静かにこう伝えました。

「お母さんが私を思って厳しくしてくれたのは分かってる。でも、今の私の責任は、この子を今の時代のルールで守ることなの。お母さんの経験ではなく、今の法律を尊重してほしい」

実母はすぐには納得しませんでしたが、パンフレットに記された「法改正」の文字を無言で見つめていたといいます。

世代間の価値観の衝突は、どちらかが「悪」なのではなく、社会の進歩が生んだ歪みです。しかし、未来を生きる子どもの権利を守るために、私たちは過去の経験を捨て、新しい「価値観」を選択し続けなければなりません。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

(まいどなニュース/もくもくライターズ)

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