孫と養子縁組→「法定相続人が増えて基礎控除が拡大できる!」と思ったら…アクロバットな相続税対策が骨肉の争いの火種に

都内の一等地に複数のアパートや駐車場を所有する70代の資産家Aさんは、対策をしないと億単位のお金が必要となる相続税に悩まされていました。そんなある日、知人から教えられた「孫を養子にする」という税金対策手法は、まさに渡りに船の解決策でした。長男の息子を養子に迎え入れれば、法定相続人の数が増え、基礎控除の拡大とともに税率区分も下がるからです。

しかし良かれと思ったこの計画を息子たちに伝えると、これが新たな火種となってしまいます。この計画を聞いた次男は、長男一家だけが実質的に相続分を二重取りすることになると猛反発し、兄弟は顔を合わせれば罵り合うようになったのです。また、万が一、租税回避とみなされた場合、養子縁組の節税効果が税務署から否認される可能性があることも知りました。

果たして、この養子縁組は認められるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

■養子縁組が否定される可能性もあり

ー孫を養子にすることが、相続税対策になる理由を教えてください

まずは「基礎控除額の増加」が考えられます。相続税は課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いた金額を課税遺産総額として計算するしくみのため、基礎控除額が増加すると課税遺産総額は減少することになります。

相続税の基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、養子縁組によって相続人が1人増えれば、控除額が600万円増えます。また相続人が増えることで計算上1人当たりの取得額も減少することから、取得した財産の金額が増えるほど段階的に税率が上がる累進課税方式では、累進課税の税率区分が下がる効果も期待できます。

2つ目は「世代飛ばし」の効果です。通常は「親→子→孫」と2回相続税がかかるところを、孫へ直接資産を渡すことで、課税回数を1回減らすことになります。

ー節税効果の一方で、どのようなデメリットやリスクがありますか

デメリットのひとつには「相続税の2割加算」が挙げられます。被相続人(亡くなった方)の一親等の血族(実子など)や配偶者以外が財産を相続する場合、相続税額が2割増しになります。代襲相続人ではない孫養子は2割加算の対象となるため、節税効果よりも加算額が上回らないかシミュレーションが必要です。

またAさんのケースのように、他の相続人世帯の取得分が減るような場合、親族間トラブルに発展するリスクがあります。さらに孫が未成年の場合、遺産分割協議において「特別代理人」の選任が必要になるなど、手続きも煩雑になります。

なお相続税の計算において、法定相続人として算入できる養子の数は必ずしも無制限ではなく、原則は被相続人(亡くなった方)に実子がいる場合には1名まで、実子がいない場合には2名までという点に注意が必要です(ただし、例外あり)。

ー税務署から「租税回避行為」とみなされ、否認されるケースとはどのようなものですか?

過去の最高裁判決(2017年1月31日第三小法廷判決)では、Aさんのケースのように祖父によって孫を養子としようとした際に、別の子どもから「節税目的での養子縁組のため、無効だ」という訴えが発生しました。

しかし法廷では「節税目的での養子縁組であっても、直ちに無効とはならない」という判断が示され、もっぱら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、ただちに民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないとされました。

とはいえこの判例によって、相続税法上の利益を得る動機でなした縁組がすべて有効となるということではありません。もし養子縁組の意思が当事者に全くなく、書類上の形式を整えただけであったり、あまりに不自然な時期・経緯で行われたりした場合は、養子縁組が否定される可能性があります。

ーいわゆる節税養子を検討する際に、家族間でどのような話し合いや合意形成が必要ですか

「なぜ養子縁組をするのか」という目的を、長男だけでなく次男など他の推定相続人にも包み隠さず説明することが必要です。

特定の親族にメリットを与えることが目的なのではなく、「一族全体の資産を守るためである」という関係者の理解を得ることや、特定の相続人が有利・不利とならないよう、生前贈与や遺言書で遺産配分のバランスを調整するなどの配慮を示すことが、骨肉の争いを避ける鍵となります。

経済的な合理性の追求が、必ずしも相続における関係者の感情的な納得性にはつながらない点に注意が必要だと考えます。

(税務上の見解についての協力:神戸市 はらの税理士事務所)

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・八幡 康二)

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