精神疾患の障害年金、認定率は40%ほど…支給・不支給の境界線は うつ病で退職・40代男性の相談事例から【社会福祉士が解説】
40代、男性の石井さん(仮名)は、30代の頃よりうつ病になり、現在も心療内科にて服薬治療と公認心理師による心理療法を受けています。前職で、何度となく休職と復職を繰り返してしまった結果、退職へと追い込まれ3カ月が経過しました。現在は、障害者手帳の一つである精神保健福祉手帳を取得して転職活動中ではありますが、少し自信を失った石井さんは、障害年金を申請しようと考え、障害者就業・生活支援センターへ相談に訪れました。
令和5年(2023年)度の障害年金業務統計等によると、精神障害における新規申請の認定率は約40%前後で推移しています。つまり、申請者の約6割が不支給という現実に直面していますが、確実に受給するための構想を立てていくこととしました。
■障害年金を阻む「不支給理由」TOP5の分析
障害年金が不支給となるには明確な理由があります。それは書類作成時の不備と保険料に関する要件です。厚生労働省の公開データや実務上の傾向から、以下の5つが主な要因です。
①初診日の証明不足(受診状況等証明書が取れない)
障害年金には「初診日主義」があり、書類作成には初診日の特定が不可欠です。カルテの破棄や転院により証明ができない場合、門前払いとなり、そもそも申請すらできなくなる可能性があります。
②診断書の記載内容と実態の違い
医師が患者の「診察室での様子(比較的安定している状態)」のみで診断書を作成し、日常生活の困難さが反映されないケースです。主に、診断書を作成する医師と患者とのコミュニケーション不足が原因であることが多いようです。
③「働くこと」に対する厳しい評価
たとえ短時間のアルバイトであっても、「労働が可能=日常生活能力がある」と判断され、不支給とされる事例が後を絶ちません。「働く」と一言で言っても、雇用形態、勤務可能時間、勤務日数、業務の内容、1カ月の賃金など、詳細な情報が必要となります。
④保険料の納付要件の欠如
保険料の未納が、初診日までに一定期間以上あると、いかに障害が重くても法的要件を満たしません。そのために、いくら生活状況に困難があっても受給は不可能です。
⑤病歴・就労状況等申立書と診断書の整合性不足
本人が作成する申立書と、医師が作成する診断書の内容が矛盾している場合、証拠としての信憑性が疑われるため、不支給になってしまいます。
■具体的なケースから学ぶ承認例と不支給例の分かれ道
障害年金を申請する際、提出する診断書には障害の状態を様々な観点から医師が記載しますが、特に年金の支給・不支給を決定する大きな要素が4つあります。それは「現在の病状又は状態像」「日常生活能力の判定」「現症時の就労状況」「日常生活能力の程度」です。
しかしこれらは、自由に記載できるものではなく、あらかじめ記載してある項目に医師が適当であると判断した程度にチェックを入れる形式になっています。
そのため大前提として、医師が患者の生活状況、就労状況、日々の困りごとなどを正確に、かつ具体的に把握している必要があります。
下記の【支給例と不支給例の比較】には、同じ状況を表したものですが、医師がどのように把握しているかによって、どの項目にチェックを入れるかが、大きく変わってくることを知っていただきたいと思います。
【支給例と不支給例の比較】
▼食事
支給例:家族が用意したものを食べるだけで、自炊や後片付けは不可。
不支給例:食事は自分で食べている。
▼身辺の清潔保持
支給例:家族に入浴を促され、準備を整えてもらわなければ数週間放置してしまう。
不支給例:入浴は週に数回。
▼服薬
支給例:家族が声掛けをしなければ飲み過ぎや飲み忘れがある。
不支給例:自分で飲めている。
▼通院
支給例:投薬による副作用があるが、援助のもと、なんとか通院を継続している。
不支給例:症状安定。定期通院中。
▼対人関係
支給例:家族以外の交流は、1~2人の友人のみ。
不支給例:友人との交流あり。
▼就労状況
支給例:短時間のアルバイト勤務。精神障害を勤務先に開示していない。体調不良時の欠勤が多いが、現在は容認されている。
不支給例:週4日のアルバイト。精神障害の報告はなし。
■「もらえるはず」を「確実」に変える3つの具体策
①日常生活記録(ライフログ)の記載
障害年金を申請する際に必要な書類は2種類あります。一つは主治医が作成する「診断書」。そして患者自身が記載して作成する「病歴・就労状況等申立書」です。この「病歴・就労状況等申立書」は、審査官が本人の主観的な困りごとを確認する、唯一の書類です。
できるだけ「できないこと」を具体的に記載してください。例えば「金銭管理ができない」ではなく「買い物に出かけると残金や必要経費を考えずに買い物をしてしまう」などです。
「病歴・就労状況等申立書」に記入するために、1カ月程度は毎日の生活状況を細かに記録しておきましょう。これが日常生活記録(ライフログ)です。当たり前だと思っていることでも、後から読み返したり第三者が読み返してみると、健康な人であればやらないこと(またはできること)が浮き彫りになることもあります。
また、日常生活記録のなかには、家族がどれだけ家事を代行しているか、療養生活を援助しているのかを、できれば具体的な数値(日数、時間、回数など)を記録しておきましょう。
②医師との「事前相談」
医師は医学的診断のプロですが、障害年金の審査基準(社会保障法上の基準)に精通しているとは限りません。そのため、診断書を作成してもらう前に、綿密な事前相談をしておきましょう。
そのためにはまず、申請に必要な書類を作成する前に、先ほどの「日常生活記録」と、1カ月程度の「症状の波」をまとめたものを医師に渡しましょう。
③社会保険労務士などの専門家活用
精神疾患の申請は、身体障害と異なり数値で測れないため、現状と書類の記載内容の整合性が可否を分けます。初診日の特定が困難な場合や、就労中で不支給のリスクが高い場合は、実務経験豊富な社会保険労務士への依頼を検討すると良いでしょう。
ただし、無料ではないため、必要になる料金を確認したうえで依頼を検討して下さい。
■生活の安心感を得て心もより健康に
精神疾患による障害年金は、決して「公的扶助(生活保護)」ではなく、これまでの労働や保険料納付に対する「権利」です。しかし、その権利を行使するためには、厳格な認定基準に適合する「客観的な証拠」を積み上げる必要があります。
石井さんは、障害者就業・生活支援センターの支援員に支援していただきながら、必要な書類を集め、まずは「日常生活記録」を記載することから始めました。また、今までは主治医になんとなく遠慮しがちで、診察時にあまり多くのことを話してきませんでしたが、「自分自身のため」と思い勇気を持って、日常生活の困ったことを、詳しく相談するよう心がけるようにしたそうです。
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。
(まいどなニュース/もくもくライターズ)
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