「やけに心に刺さる」大人の塗り絵 浪速のイラストレーターが毎日手描きで投稿 まだバズってないけど…取材してみた
Xに、手描きの「塗り絵」を投稿し続けているイラストレーターがいる。失礼ながらバズっていないし、フォロワー数も多くない。だが、iPad(第6世代)にアップルペンシルで手描きしたという着色されていない線画イラストが、やけに心に刺さるのだ。
年が明けてからほぼ毎日、Xに「大人の塗り絵」を投稿し続けている浪速のイラストレーター・kaminomasahiko(以下、かみの)さんに、毎日描き続けることの意義を聞いた。
■1日1投稿を無理せずに続ける
かみのさんが描く「大人の塗り絵」は、たんに手描きの線画だけでなく、簡単なうんちくも語られているのが特徴だ。たとえば1月20日に投稿された「その19」は消防の特殊車両「Red Salamander」を描き、東日本大震災の教訓から導入された車両であることやその機能などが余白にびっしりと書き込まれている。
また、1月30日に投稿された「その28」は盗撮被害の注意を促すイラストで、警察から依頼を受けて描いた作品がベースだという。
このようなイラストを「大人の塗り絵」として、しかも手描きで毎日投稿することになった動機を、かみのさんは次のように語る。
「何か目標があったほうがいいと思い、1日ひとつなら投稿できるだろうと簡単な気持ちでスタートしました。今まで描き溜めた雑多なイラストがあります。それを塗り絵仕様に修正することは、さほど難しいことではありません」
かみのさんは、イラストを描くこと自体は苦にならないという。むしろ、メッセージ性をもった塗り絵に仕上げることに時間がかかるそうだ。
「企画を考えるのに時間を要しますが、その苦難を楽しんでいます。例えば『その30』の『再び日本一になった』は、大阪・関西万博の大屋根リングからヒントを得て描いたものです。万博の開催中は、大屋根リングが日本一長い木造建築物として話題になりました。それまでは、京都の三十三間堂が日本一だったのです」
万博が閉幕したあと、大屋根リングは200メートルだけ部分的に残される。三十三間堂はそれより短い125メートルだが、完成した姿で現存しているのだ。
■塗り絵をきっかけにコミュニケーションが生まれてほしい
かみのさんが塗り絵の線画を描くようになったきっかけは、書店で見かけた塗り絵の本だった。そこには富士山や海外の有名画家の作品を線画にしたイラストが掲載されていて、それなりに綺麗だと思ったそうだ。しかし、別の思いも湧いてきた。
「それを見ながら脳裏に、お年寄りが部屋の中でひとり、淡々と塗っている姿が浮かんできたのです。人生の残り時間を消費するために、決められた部分にそれらしい色を塗っている姿を、あまりにも切ないと感じました」
じつは、かみのさんの本業は介護事業所の経営だ。業務の合間に、イラストを描いている。
「高齢者がひとりで塗り絵をしている光景は、好きではありません。同じ高齢者でも、デイサービスセンターなどで、みんなでワイワイおしゃべりしているほうが好きです。誰かが塗り絵をしていると、それを見た別の高齢者が『それ、なんの絵を塗ってんの?』と話しかける。すると『これな、三十三間堂らしいねん』と返す。そんなコミュニケーションのスタートになれば、最高に嬉しいと思って描いています」
塗り絵は指先の繊細な動きを促すため、認知症の予防効果も期待できるそうだ。
「ここにこの色を塗らなければならないという、規則や規律はありません。半分だけ塗っても、線を無視して塗っても、単色だけで塗っても、更には紙をぐしゃぐしゃに丸めてもOKです」
かみのさんの画風が今のタッチになったのは、20年ほど前から。今では地元の東成区役所、東成消防署、東成警察署、大阪の日本赤十字社などからも作画の依頼が来るといい、職場の事務所でコツコツ描いている。
「私が描いたイラストを指して『これ、かみのさんが描いた絵でしょ?』と言われることがあります。その言葉が、私の作品に価値を見出してくれます」
いずれは、書籍化や個展などのアウトプットも考えているというかみのさん。あえて人の手で描く線画を供給し続けることに、自分にしか出来ないことをする喜びを感じている。どんな作品が投稿され続けるのか、これからも楽しみに見守りたい。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)
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