【インタビュー】『ばけばけ』ヘブン役、トミー・バストウ 役作りの秘訣は「『共感』と『自分の中のリアル』を大切に」

松江の没落士族の家に生まれ、世の中をうらめしいと思って生きてきた松野トキ(髙石あかり)が、英語教師として赴任してきたレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)と出会い、怪談を通じて惹かれ合い、激動の明治時代を共に生きていく──。連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合ほか)は、ふたりが結ばれたところで後半に突入。物語がますます盛り上がる中、ヘブンを演じるトミー・バストウが合同取材に応じ、役にかける思いと作品への愛を語ってくれた。

■黒沢映画と三船敏郎が対好きだった少年時代から俳優に憧れて

──俳優には、どのようなきっかけでなられたのでしょうか。

トミー・バストウ(以下:トミー) 父の、僕に対する教育が映画でした。子どもの頃から世界中の映画を観せてもらって、日本の映画もよく観ました。特に黒澤明監督の映画と三船敏郎さんが大好きで。映画好きの少年時代から、ずっと俳優になりたいと思っていました。14歳から俳優として活動を始めましたが、仕事がない時期が多く、厳しい生活を強いられることもありました。

 今こうして、日本の国民的番組である「連続テレビ小説」という枠、そして『ばけばけ』という作品で1年以上の長い時間をかけてレフカダ・ヘブンという役を演じることができるのは、夢が叶ったみたいな感じです。

■「僕もただの人間。彼もただの人間」と思えたことが役作りの原点

──小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)がモデルであるレフカダ・ヘブンの役作りを、どのようにしましたか。

トミー 撮影に入る前はとても緊張しました。役作りのためにハーンさんの書物を読み漁りましたし、松江でゆかりの地めぐりもしました。ラフカディオ・ハーンという素晴らしい偉人をモデルとした役を演じるということのプレッシャーと責任感が強くありました。

 ところが、不思議なことに、ハーンさんのお墓を訪ねたとき、「人間として近づけばいいんだ」という気持ちになりました。きっとハーンさんもヘブンも、僕と同じで、知らない国に渡ってきて全身全霊で頑張って、劣等感もあったんだろう。そんな共感をもつことができたんです。僕もただの人間。彼もただの人間。そう思うと、演じる力が湧いてきました。

■チーフ演出からもらった言葉が力に

──朝ドラの現場はいかがですか?

トミー 撮影前に、チーフ演出の村橋直樹さん、制作統括の橋爪國臣さんとお話をしました。僕はヨーロッパやアメリカで俳優活動をしてきて、日本に関わる作品は『SHOGUN 将軍』しか出演したことがありません。日本の「朝ドラ」に出演するとなると、芝居のスタイルを変えた方がいいんじゃないかと、相談したんです。

 そうしたら村橋さんが「トミーさんのスタイルを日本に持ってきてください」と言ってくださって。「(撮影現場において)文化の違いはあるけれど、役者は世界共通、変わらない。『そこに自分の真実があるかどうか』を必ず持ってきてね」という言葉をもらって、とても安心しました。 

 役作りの前段階としては極力いろいろ調べて勉強して、現場に入ったら「自分にとってのリアル」を大切にして、役に入り込むように心がけています。もちろん僕とハーンさん、僕とヘブンは違う人間なので、「共感」を大事に、自分の経験を役に組み合わせて取り組んでいます。

■ヘブンの「箸の持ち方」に注目してください

──現在放送中の第15週あたりで、ヘブンは片言の日本語を話し、なんとか日本の文化に馴染もうとしているところですが、トミーさんご自身は日本語をとても流暢に話されます。「不慣れ」の部分をどのように演じましたか?

トミー たぶん僕はヘブンよりも少し日本語が話せたり、箸が使えたりしますが、「使えないふり」の芝居をしています。自分が初めて日本に来たときや、日本語の勉強を始めた頃を思い出して、「ヘブンは今、どのへんの段階なのかな」というのを考えながら演じているのですが、たまに「うまく」やりすぎてしまったり、飛ばしすぎてしまったりも。そのあたりを調節しながら演じています。

 現在放送中のエピソードでは、ヘブンは箸の持ち方に苦戦している段階で、低い位置で箸を持っています。でも物語が進むとともに慣れて、箸を持つ位置がどんどん上に上がっていくんです。そこにも注目してみてください。ただ、正座だけは、いまだに僕も苦手です(笑)。

■トキ役・髙石あかりと芝居をすると、感情が自然に出てくる

──トキ役の髙石あかりさんとの共演はいかがですか。また、ヘブンとトキのシーンで印象に残ったシーンがあれば教えてください。

トミー 僕のヘブンとしての演技は、あかりさんのおかげでできていると言ってもいいぐらい。あかりさんとお芝居できることが、本当に有意義な経験だと思っています。あかりさんと一緒のシーンでは、感情が自然に出てくるんですね。僕にとってこれは、とても珍しいことなんです。

 放送が終わった範囲でいうと、第14週・第66回の「プロポーズ」のシーン。日本滞在記を書き終えたら松江を離れることになっていたヘブンがトキに「イテモ、イイデスカ?」と言うシーンが、いちばん印象に残っています。ヘブンとしての感情が自然にあふれ出たシーンでした。

 第10週でヘブンが風邪をこじらせて寝込んだとき、トキが「大寒波」をヘブンにもわかりやすい言葉で、「波」のジェスチャーを使って教えてくれたシーンもよかったですね。あのジェスチャーが本当に可愛くて、ヘブンとしても、トミーとしてもキュンとしました(笑)。僕の感覚としては、ヘブンはあそこで最初にトキを女性として意識したのではないかなと思っています。

■夫婦ふたりで、この世界で何かを作って、発信していく

──ふたりが夫婦になってから、演じ方が変わったりしましたか?

トミー ふたりの関係性自体はそんなに変わっていないと思うんです。ヘブンもトキも、子どもの頃は大変な経験をしてきたから、お互いをいたわりあって、怪談を一緒に楽しんで、もう一度子どものときの心を取り戻そうとしているようなところがあります。

 でも、夫婦になってから、あかりさんのお芝居は少し落ち着いて、大人っぽくなったかな。そういうところもすごいと思いますね。あかりさんのお芝居によって、僕のヘブンとしての芝居も自然に「夫婦らしく」変わっていったかもしれません。

 この先、ヘブンとトキは「一緒に作る関係」になっていきます。トキが語った怪談をヘブンが本にする。夫婦ふたりで、この世界で何かを作って、発信していく。ヘブンは、初めてトキに怪談を語ってもらったときに、そういう未来が見えたから、結婚を決めたのだと思います。

■岡部たかしが差し入れた梅干しを食べて「Oof!」

──「新婚編」に入ってから同居することになって、同じシーンが増えた司之介役の岡部たかしさん、フミ役の池脇千鶴さんとの共演はいかがですか。

トミー みなさん優しいです。カメラが回っていないときもたくさんおしゃべりしていて、たまに松野家のみなさんの会話が早すぎてついていけないことがあるんですけど、僕が理解できるまで、何回も、簡単な日本語を使って話してくれます。

 現場では毎日のように面白いことが起こります。岡部さんが梅干しを差し入れてくださったことがあったのですが、僕は一口食べて「Oof!」と言ってしまい、好きな「ふり」さえできませんでした(笑)。それをみんなが見て爆笑して。

■他文化にふれるとき、「少し無知」であることも必要

──『ばけばけ』のテーマにもなっていますが、他の文化にふれるときに、どんなことが大切だと思いますか?

トミー 僕は子どもの頃から日本文化にすごく惹かれてきました。ハーンさんもヘブンも、幼い頃から異文化に魅せられた人です。130年以上前にアメリカから日本に渡ってきたハーンさんとヘブンを、僕は本当に尊敬します。あの時代に遥か遠い、見ず知らずの国へやってきて滞在記を書くなんて、並大抵のことではなかったと思います。

 ハーンさんとヘブンは、どこにも属さない人ですよね。自国の文化に違和感を感じたり馴染めなかったりして、どんどん外へ飛び出していった。そして「自分はどこに存在すべきなんだろう」ということを生涯探求し続けた。「探す」ということが、とても大切なんだと思います。

 全く知らない世界に飛び込んでいくためには、ときには「根拠のない自信」みたいなものも必要だと感じます。冒険心や探究心とともに、少し無知であることと、楽観的であることが大事。僕は、こんなにも日本語が難しいとあらかじめ知っていたら、たぶん日本に来ていなかったと思います(笑)。

■「熊本編」ではヘブンとトキが新たなチャレンジも

──これから放送される、『ばけばけ』後半の見どころを教えてください。

トミー この先の「熊本編」では、新しいキャストを迎えて一層「エネルギーアップ」していきます。ヘブンとトキは歳を重ねて、若い人たちとも向き合いながら、初めてのチャレンジもあります。ふたりでいろんなことに取り組んでいく。そこが後半の見どころかなと思います。

 ヘブンとしての自分の演技、芝居がどんなものか、自分ではまだわかりません。もしかしたら最後まで演じ切ったところで、わかるのかもしれません。これからのヘブンとトキ、これからの『ばけばけ』もぜひ楽しみにご覧ください。

(まいどなニュース特約・佐野 華英)

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