パート勤務で15万円に届かず…塾も通えない娘の進学に影響も 地方の「ひとり親」、より貧困な環境に?【社会福祉士が解説】

「毎月ギリギリ。貯金なんて夢のまた夢」

地方で二人の子どもを子育てするシングルマザーの吉田さん(仮名)。月収は手取り15万円にも満たないと言います。

日本のひとり親世帯の相対的貧困率は、44.5%(厚生労働省「2022年国民生活基礎調査」2021年時点)となっており、約2世帯に1世帯が貧困状態にあります。特に地方では、仕事の選択肢が少なく、保育園や学校の選択肢も限られています。

「頑張っても報われない」

そんな声が、全国の小さな町で聞こえてきます。この記事では、地方で暮らすひとり親世帯の現実を通して、構造的な格差の実態を見つめ直します。

■地方のひとり親世帯が直面する三重苦

地方のひとり親世帯は、低賃金・保育園不足・教育機会の少なさという「三重苦」に直面しています。働いても収入が安定せず、子どもの預け先も限られ、塾や習い事に通わせる余裕もない。個人の努力では越えられない構造的な壁が、親子の生活を追い詰めているのです。

▽低賃金の壁-地方では選択肢が少ない

吉田さんはスーパーのパート勤務。時給は950円、月収は手取りで約15万円にも満たないと繰り返します。

家賃や光熱費、食費を差し引くと、残るのはわずか数千円。「車がないと通勤できないので、維持費もバカにならない」と苦笑します。

地方では正社員の募集が少なく、非正規雇用が中心のところも少なくありません。フルタイムで働いても、都市部のパート収入と大差がないのが現状です。加えて、実家の支援が得られない家庭も多く、子どもが病気になればすぐ欠勤。「休めば収入が減る」という不安が、ひとり親世帯の人々の生活を常に追い詰めています。

▽保育・支援の地域格差-地域ごとの支援範囲の違い

子どもを預ける保育園も、地方では「空きがあっても通えない」ケースは珍しくありません。理由は、送迎距離と勤務時間のミスマッチ。

「片道20分の保育園に送ってから職場に行くと、勤務時間に間に合わない」と吉田さん。交通手段が限られる地方では、働く親にとって時間の制約がさらに重くのしかかります。

また、ひとり親世帯向けの支援制度(児童扶養手当、就学援助など)も、「申請が複雑」「相談窓口が遠い」などの理由で十分に活用できない現状があります。 同じ「ひとり親世帯」でも、住む地域によって支援の手厚さが大きく違うのは、紛れもない現実です。

たとえば、都市部では病児保育や学童保育などの一時預かりサービスが充実している一方、地方では「そもそも施設がない」「自宅から遠く、車での送迎が必須」という状況が珍しくありません。また、就労支援プログラムや資格取得の助成制度も、都市部では選択肢が豊富でそれらの情報提供も積極的ですが、地方では情報すら届きにくいのが実情です。

それらが、地方の貧困をより深刻化させる一因となっているのです。

▽教育費の現実-教育機会の格差が大きい

吉田さんの中学1年生の娘は「将来は医療関係の仕事に就きたい」と話し、レベルの高い高校への進学を希望しています。しかし、志望校は自宅から電車で1時間半の距離。進学すれば、定期代もかかります。現状、家庭には塾代を払う余裕もありません。

「お金に余裕がなく、小学生の息子も同じ状況で、親として責任を感じる」

吉田さんは何度も顔を曇らせます。

都市部の世帯と地方の世帯では学校や塾などの選択肢の数に大きな差があります。また、地方部の世帯では、子どもの学力に合った教育を受けさせるために交通費や下宿の費用がかさむケースもあり、経済的な事情で進学を断念せざるを得ないという事態にもつながっています。

この「差」が高校進学率、大学進学率にそのまま表れ、 結果として「貧困の連鎖」を生み出す要因に。「子どもの未来を諦めたくない」。

そう願いながらも、母親たちは現実との間で苦しみ続けているのです。

■地方のひとり親世帯の貧困率は、個人ではなく社会の構造的な問題

こうした現状に寄り添う制度がないわけではありません。例えば、ひとり親世帯が受けられる権利である児童扶養手当があります。所得に応じて支給額は異なるものの、子ども一人を扶養する場合の全部支給額は、月額4万5500円ほどです。

そのような制度があっても、ひとり親世帯の人々が、育ち盛りの子ども達を育てる上では、厳しい現実や制度の壁があります。

低賃金・支援不足・教育格差という「三重苦」を抱え、「もっと努力すればいい」「節約すれば何とかなる」といった言葉では片づけられないのが、今の地方の現実です。

地域インフラや教育支援への投資が「次の世代の希望」へとつながります。ひとり親世帯の奮闘を「自己責任」で終わらせないために。私たち一人ひとりが、社会構造を見つめ直す必要があります。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士。身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

(まいどなニュース/もくもくライターズ)

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス