72歳の母が脳梗塞…介護が突然現実に 昼間は仕事、娘は受験「退院まであと1週間、何をすれば…」
都内の商社で事務職として働く田中美香さん(45歳・仮名)は、高校3年生の娘の大学受験を控えた多忙な日々を送っていました。
夫は営業職で出張が多く、平日はほぼワンオペ状態。そんななか、実家で一人暮らしをしていた母親(72歳)が脳梗塞で倒れ、緊急入院となったのです。
「退院後は、ご自宅での介護が必要になります」
医師からそう告げられた美香さんは、頭が真っ白になりました。準備も知識もないまま、母の介護と向き合うことになったのです。
■「介護が必要」と言われたけれど、何をすればいいの?
母親は軽度の麻痺が残り、退院まであと1週間。娘の受験勉強、夫の出張、自分の職場のプロジェクト……時間も気力も足りないなかで、何から始めれば良いのかわからず途方にくれていました。
「手すりの設置?」
「介護ベッドのレンタル?」
「ヘルパーさんって頼めるの?」
インターネットで検索すると情報は山ほど出てくるものの、どれも断片的。要介護認定や地域包括支援センター、ケアマネジャーといった専門用語ばかりで、結局何から手をつければいいのかわかりません。
「まずどこに相談すればいいの?」
焦りと不安で夜も眠れない日々が続くなか、美香さんは深い孤立感を抱えていました。
■すべてはここから始まる─要介護認定を申請しよう
ある日、職場で同僚に相談したところ、5年前に義母の介護を経験した先輩の佐藤さんを紹介されました。佐藤さんは美香さんの状況を聞くと、こう言いました。
「私も最初は同じ状況だった。介護って、やることが多すぎて何から始めればいいかわからないよね。でも実は、最初にやることはたった1つなの」
美香さんが専門用語の多さに困惑している愚痴をこぼすと、佐藤さんは深くうなずきました。
「わかる、わかる。でもね、その迷路から抜け出す方法があるの。それは要介護認定の申請をすること。これだけで、霧が晴れるように道筋が見えてくるから」
意外にもシンプルな答えでしたが、佐藤さんの話を聞くうちに、この「申請」がいかに重要な第一歩なのかがわかってきました。
■要介護認定申請─支援への扉が開く仕組み
要介護認定は、介護保険制度を利用するための入り口です。申請から認定まで、以下のステップで進みます。
1. 申請提出
市区町村の窓口で申請書等を提出
2. 認定調査
市区町村の調査員が自宅や施設等を訪問し、身体状況や生活状況の認定調査とともに、かかりつけ医への意見書作成を依頼
3. 認定結果通知
要支援1・2、要介護1~5のいずれかに認定される
4. ケアプランの作成
認定後、ケアマネジャー(介護支援専門員)と契約を結び、具体的なサービス利用計画を作成
申請や相談は、介護が始まる前から行なえます。例えば、入院中でまだ自宅に戻っていない場合でも、退院後を見据えて申請を進めることが可能です。
認定調査は退院後の心身が安定した状態で行なわれるのが一般的で、認定結果の通知は原則として申請から30日以内に届きます。
サービス開始までの不安が大きい場合は、地域包括支援センターや医療ソーシャルワーカーに相談しましょう。
■すべてを背負わない─「一歩だけ踏み出す」ことが前に進む力になる
「あのとき、要介護認定を申請しなければ、今も一人で悩み続けていたと思います。申請は単なる手続きではなく、支援の始まりでした」
現在、母親はデイサービスで友人もでき、リハビリにも意欲的です。美香さんも混乱状態から抜け出し、娘の受験サポートと仕事を両立できています。
「介護は最初から完璧な計画を立てる必要がないとわかりました。わからないことがあっても、まず一歩踏み出せば、必ず支えてくれる人がいます」
介護を一人で抱え込む必要はありません。要介護認定の申請という小さな一歩が、大きな支援の輪につながります。
【監修】財前裕(ざいぜん・ゆたか)1級ファイナンシャル・プランニング技能士 元銀行員・Webライター。銀行員時代には、個人の資産運用や住宅ローン、保険など多岐にわたる金融商品の提案を行い、顧客のライフプランに合わせた最適なアドバイスを提供してきた経験がある。現在FP1級を取得し、Webライターとして、お金に関する記事執筆を担当している。
(まいどなニュース/もくもくライターズ)





