兄「親父は借金しか残っていない」→実は、一等地に土地があった 嘘をつかれた妹…12年前だと時効? どうすれば?【行政書士が解説】
Aさんは都内でパートとして働きつつ、12年前に他界した父親を時折思い出しながら、穏やかな日々を過ごしています。父が亡くなった直後、5歳年上の兄は「親父には借金しか残っていないから、相続の手続きなどは何もしなくていい」とAさんに話していました。しかし先日、遠縁の法事で会った叔母と世間話をしたところ、叔母の口から「あなたのお父さんは駅前の一等地に土地を持っていた」という話が飛び出します。
Aさんの頭は一瞬で真っ白になりました。借金しかないという兄の言葉は嘘だったのです。Aさんはその足で兄の家へ向かい、叔母から聞いた話を突きつけます。兄は一瞬顔をこわばらせましたが、すぐに開き直り、「全財産を長男である自分に相続させる」という遺言書があったために、借金しかないと嘘をついていたことを認めたのです。
兄の回答を聞いたAさんは、震える声で自分にも遺留分という最低限の権利があったはずだと訴えると、兄は鼻で笑い「12年も前の話だ、時効だろう」と言うのです。本当にAさんの権利は消え去っているのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
■10年が経過する前に手を打たなければ…
ー「遺留分」とは具体的にどのような権利ですか
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、親など)に法律上保障されている最低限の遺産取得分のことです。遺言書の内容が「特定の相続人に全財産を譲る」など、ほかの相続人の遺留分を侵害するものであった場合に、侵害された相続人は財産を多く受け取った人に対して、侵害された分に相当する金銭の支払いを請求できます。これを「遺留分侵害額請求権」と呼びます。
Aさんの場合は、父親の子供として法定相続人であるため、遺留分を請求する権利があります。
ーAさんの場合時効は適用されるのでしょうか
原則として時効は成立すると考えられます。遺留分侵害額請求権には、「相続の開始と遺留分が侵害されていることを知った時から1年」「相続開始の時から10年」の期間制限があります。
10年という期間は「除斥期間」と呼ばれ、遺留分侵害の事実を知っていたかどうかに関わらず、相続が開始した時点(お父様が亡くなった時点)から進行します。この期間は時効の中断などが認められない非常に厳格なもので、10年が経過すると、原則として権利は消滅してしまいます。
ー10年経過後でも請求できる例外的なケースはありますか?
例外的なケースは存在します。Aさんのお兄様は、ただ遺言書があったことを伝えなかっただけでなく、「借金しかない」と嘘をつき、積極的に遺産の存在を隠していました。単に遺留分を侵害しているだけでなく、Aさんの相続権を意図的に侵害する「不法行為」に該当する可能性があります。
遺留分侵害額請求権が時効で消滅していても、お兄様の不法行為によって被った精神的・財産的損害について、損害賠償請求という形で請求できる可能性はゼロではありません。
いずれにせよ、非常に専門的な判断が求められる状況ですので、早急に弁護士などの専門家へ相談されることをおすすめします。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・八幡 康二)
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